菩提寺〜高天彦神社 住民の手で「花山ロード」 奈良県御所市澤田作哉さん自画像    
 
   金剛山の大和側山麓の菩提寺から高天彦(たかまひこ)神社を結ぶ新道「花山ロード」=写真を4月末に歩いた。オオデマリやツツジが花盛りを迎え、葛城古道と自在につながる住民手づくりの充実のコースだ。

 近鉄御所駅からのバスで船路下車、船宿寺に寄って金剛葛城山系への坂を上がる。伏見の集落に着き菩提寺に参拝。4月7日の毘沙門会式では満開を迎えていた桜はすっかり葉桜になっていた。

 少し戻って、花山ロードに入った。入口に北西方向は高天彦神社、南西は菩提寺に向かう矢印を示した道標がある。(下から上がってきた時は、電柱の陰に隠れて見えづらいので要注意)。

◇オオデマリの花のトンネルくぐって
 
   緑の林の中にオオデマリ、ヤマブキ、ツツジの花が咲きそろい、明るい雰囲気だ。小道を下って谷川を渡ると、オオデマリ=写真=のトンネルをくぐる登り道が続く。船宿寺の花は真っ白だったが、標高400mのこの地は季節の歩みがゆっくりしているようで、咲き始めの緑っぽい色を残している。けっこう急な登り下りもあるが、要所にしっかりした金属製パイプの手すりや踏み板がつけられているので、安心して歩ける。
 
 登りが一段落したら、ヒノキの植林地の間の山道。アオキ、ヤブツバキなどの常緑樹も混じっていて、木漏れ日の中を歩くのは心地よい。小鳥のさえずりや小川のせせらぎを聞きながら進むと、あづまや風の休憩所がある。ここで一服、正面に高天彦神社の神体山の白雲嶽(985m)=写真=を望む。ゆるやかな山容の金剛・葛城山系の中でも一つ突き抜けたような形のいい秀峰だ。

◇年2回は手入れ、安全、快適に通過 

 すぐ先のイノシシ防御用の金網扉を開け閉めすると新道は終わる。新道部分は入口から出口まで1キロ、ゆっくりで40分ほどだが、充分歩きがいある道だ

 長年途切れていた山道の再生は、菩提寺の隣に住む檀家総代の前川博さん(84)が提唱。御所市とも話し合い、荒れた藪を切り開いて谷に下りる道を新たにつけ、植林地に残っていた道と結ぶルートを計画した。地権者の協力を得て、2011年秋から地元住民を中心に作業を進め、山草園から提供してもらったツツジなどの花木を植えて翌年春に完成させた。このあたりは元々切り花を採る「花山」と呼ばれており、新道は「花山ロード」と名付けた。

 2014年には、前川さんら御所市の山麓一帯の住民が「かづらき煌めきネットワーク」を結成。奈良県や企業の支援も受けて、手すりを設置し、新たにオオデマリを植栽するなど花山ロードを再整備した。その後も、毎年6、10月にメンバー20人が3班に分かれて同ルートをはじめ道の草刈りや枝払いを続けている。道が草に埋もれたりせずに快適に歩けたのはそのお蔭だ。

◇神体山仰ぐ神話の里に

 里道に入って立派な旧家の前を通る。畑のわきで年配の男性が草刈りをしていた。主の知人で、近隣の町から畑に通いながら、金剛山頂へ通じる道の手入れをしているとのこと。こうした力で金剛山の多彩な登下山路が維持されているのはありがたい。

 庚申堂を拝んで里道をしばらくたどると、高天彦神社前の駐車場に出る。その東側の丘が「高天山草園」になっていて山主が長年山野草や樹木を世話し、周遊路などを維持管理、無料で開放してきた。

  ところが、入り口に、「高齢と病身のため、やむなく閉園することといたしました 園主 令和5年2月」というお知らせが掲示されていた。それでも「閉園後も敷地内は開放しております」と書かれていたので入らせてもらった。広い園内には、「主なくとも春を忘るな」でシャクナゲ=写真、ヤマブキなどが開花。長年のファンという多くの人が花を撮影したり、散策していた。閉園は残念だが、園主さんの心づかいに感謝だ。

 駐車場に戻って、杉の大木が並ぶ参道を通って高天彦神社=写真=の社殿に参拝する。国譲りのため出雲への使いを命じた高皇産零神(たかむすびのかみ)を祀る。背後には、先ほど仰いだ白雲嶽。金剛山頂から高天道(郵便道)を通ってここに下りたことが何度かあるが、いつ来ても厳かな気持ちになる地だ。

 ◇葛城古道と自在につながるコース

  ここから先は東へ葛城古道をたどる。広々とした天孫降臨の伝承地・高天原(やかまがはら)を通り、橋本院へ。花びらが薄緑色の御衣黄=写真=など遅咲きの桜と青紅葉が楽しめた。

 静かな林間の道をゆっくり下っていくと、ぱっと田園が広がり、極楽寺、住吉神社と寄っていく。葛城古道はまだまだ北へ続くが、今回はここで打ち止め。国道の小殿バス停に下りた。

 今回の行程の中でも、「花山ロード」はごく一部。しかし、金剛山頂に最も近く関わりの強い菩提寺と高天神社を直結するルートの価値は大きい。南の風の森神社から北の一言神社に通じる葛城古道と自由に組み合わせれば、変化あるコースを楽しめるだろう。 

 「多くの人が力を合わせ時間をかけて通した道ですが、道は利用されることで保たれます。季節季節で魅力のある花山ロードをぜひ歩いてみてください」と前川さんは勧めている。  =2024年4月25日取材 (文・写真 小泉 清)
  

★金剛山麓・伏見 菩提寺の毘沙門会式=2024..4.25取材   

霧氷の金剛山から伏見道=2023.1.29取材