青垣・江古花園のセツブンソウ  兵庫県丹波市             

   
        高見山の霧氷と室生の山々遠望
        白、黄、紫と絶妙な色の取り合わせで魅了するセツブンソウ    

・花期  1月下旬~2月末

・交通案内   車で舞鶴若狭道・春日IC~北近畿豊岡道、氷上ICを下りて北へ10分。JR福知山線柏原駅か石生駅から神姫バスで東芦田口下車、徒歩20分

電話 あおがき観光案内所(0795・87・2222)、 青垣いきものふれあいの里(0795・88・0888)

イベント 2013年の節分草まつりは2月10日(日)

                               =2013年2月7日取材=         
 2月3日の節分のころ、ほかの花に先駆けて咲くセツブンソウ(節分草)。地名のとおり青い山々が取り囲む兵庫県丹波市青垣町の山里の陽だまりには、透き通るような白い花が姿を現し、春の足音を感じさせてくれた。

  山里の陽だまりに駆ける春の足音

  節分からほどない2月7日、加古川の上流・遠阪川に沿った国道を北上し、山垣の集落に入ったところで橋を渡って山すその道を進むと、日のよく当たる土手に白い花が目についた。直径2センチくらいの小さい花なのだが、山の木々のつぼみがまだ固く、里は枯田が続く風景の中でよく目立つ。

 土手には「この付近は野草の保護地です。花を摘まないでください 地主」と書かれた看板が立てられ、周辺の用水路わきの草地や墓地のまわりの斜面にも花が広がっていて、合わせるとまとまった自生地となっている。

 白い花びらに見えるものは、実はガク。本当の花びらは、その中の黄色い球形のものという。近づいて見ると紫の葯(やく)をつけた雄しべもわかり、色の取り合わせが見事だ。白いガクも光を受けると、半ば透き通ったように見える。葉の色は粉をまぶした浅い緑色で、つつましやかな中に早春の明るいイメージを抱いた花だ。  

◇説明重ね、草刈り続けて自生地守る

 すぐ近くに住む足立幸男さん(85)にうかがうと、「ここは丹波で最も早く、年によっては1月10日ごろから咲き始めます。冬にも日差しをよく受け、土も適しているようです」。ただ、自然の好条件だけではここまで育たない。「周りの草が茂り放題ではセツブンソウは残りません」と強調する足立さんら地元の人々が草刈を続けたり、倒木を取り除くなど生息環境を取り戻してきた。

 以前は神戸、大阪方面から来てショベルで掘り起こす「園芸愛好家」もいた。足立さんらは「この土地でしか育たないので持ち帰ってもムダです」と説明を繰り返し、「隠すのではなく大切さをはっきり知らせたうえで見てもらうのが一番」と地主に看板を立ててもらい、今では盗掘はなくなったという。

 自生地の一部は地権者が世代交代するなど難しい事情もあるが、墓地など足立さん自身の所有地では、昨秋以降も草刈りを続け、日陰になる木を取り除いたりして自生地を守ってきている。

 ◇村おこしを先導、節分草まつり10回目

 山垣より南の東芦田の集落では、「江古花園」(えごはなえん)という地元の村おこしグループが、セツブンソウとそれを取り巻く里山の復活に取り組んできた。茅葺の古い民家のまわりに整備した園地の一角の土手では、300本ほどのセツブンソウが次々と開花している。

 ほどよい日当たりと水はけの良い土地を好むセツブンソウは、クヌギやコナラの落葉樹林が広がっていたこのあたりには随所に生えていたという。「根こそぎ株を持ち去る盗掘が続いたうえ、戦後、山の木々が杉やヒノキの人工林に植えかえられたことで、冬の日当たりが悪くなるなど生息環境が合わなくなって激減しました」と江古花園運営委員長の長井克己さん(70)が説明してくれた。

 「青垣いきものふれあいの里」施設長も務めた長井さんは、セツブンソウの「保全地」をつくろうと2000年から準備、近くの雑木林で採った種を自宅の庭の鉢などで3年以上育てた。地中の丸い根が十分大きくなるのを見計らって2003年秋、「江古花園」の土手に移植、翌年には早速花が咲いた。十数人の会員が当番制で世話を怠らず、セツブンソウの生息地として定着。毎年節分直後の日曜に開く節分草まつりも今年の2月10日で10回目を迎え、茅葺き民家の公開や「ハス炭」など特産品販売でにぎわう。

 「会員の庭をはじめ、セツブンソウが広がってきたので、この場所だけでなく、歩きながら花を楽しめる『セツブンソウの道』づくりを目指しています」と長井さんは話している。

 今は200世帯が暮らす東芦田の集落。「昔の冬はもっと雪が深く、50年くらい前までは遠く岐阜まで寒天づくりの出稼ぎに行きました」と、「江古花園」前代表の芦田晴美さん(80)は振り返る。冬が厳しい分、雪がまだ残る中でも春が近づいて来たことを教えてくれるセツブンソウは、里の人に親しみ深い花だったのだろう。

   ◇里山や蓮池、周囲の自然を一体で再生

 日本海に注ぐ由良川と瀬戸内海に注ぐ加古川の源流が接した丹波は、南方と北方の植物や昆虫が交じり種類が豊か。セツブンソウだけでなく周辺の自然を一体として取り戻そうというのが、地元の人の願いだ。関西学院大で自然教育を教える足立勲さん(75)は、先祖からの田を提供して蓮園にした。節分草まつりを前に里帰りしていた足立さんを訪ねると、「最近の水田は冬は水を抜いてしまい、生態系とのつながりがなくなってしまっています。従来の汁田のように水を年中張ったこの蓮(はす)園では、ゲンゴロウなどの水生昆虫も生息でき、日本在来の和メダカも見られるようになりました」。

 2010年からは里山再生プロジェクトを開始。園地の背後の小山で荒れていた杉、ヒノキの人工林2haを伐採し、ヤマザクラ、ミズナラ、クヌギ、エノキなどを10年で2000本植える計画だ。これまで300本を植えており、人工林では種が眠ったままだったタムシバ(ニオイコブシ)やマンサクが芽を出して成長してきているという。

 江古花園では里山楽校(がっこう)を開校、植栽や山の手入れ、木を使ったクラフトや観察会を行っている。地元の子供たちだけでなく、神戸や西宮などから家族連れが参加している。

 セツブンソウの花に続いて、丹波の山里の彩りは増していくことだろう。                                                                (文・写真  小泉 清)

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