石巻・マンガッタンに再開の春遠からじ                
  仙台と石巻を結ぶ仙石線は海岸に近い東松島市の区間が壊滅し、一部移設も必要なため復旧が遅れている。そのため石巻に行くには松島海岸駅から出る代行バスで矢本駅(東松島市)まで行き、同駅からまた仙石線に乗ることになる。
 
 通しの切符で乗れ、接続はきちんとされているが、地元の利用者にとって不便は否めない。多賀城市から石巻市の親類の通夜に行く70代の女性は「仙台から石巻まで快速で1時間、海沿いの景色を見られて良かったんですが…」と話していた。今は時間が余分にかかり、代行バスから見る光景は依然厳しい。

 ◇復旧見守る石ノ森作品のキャラ
 石巻駅を下りると、石巻ゆかりの萬画家石ノ森章太郎の作品キャラクターが迎えてくれた。北上川の中洲に建てられた「石ノ森萬画館」まで歩いて20分とのことで、商店街伝いの石巻マンガロードを歩く。サイボーグ009、さるとびエッちゃん、ロボコンの像などが置かれているが、北上川に近づくにつれて震災の爪跡が今も残り、撤去作業の車が行き来していて、街の光景はまだまだ復旧工事段階だ。

 北上川にかかる橋の前から宇宙船のような建物が見えてくる。これが石ノ森萬画館で閉館中。扉替わりに付けたベニヤ板には、震災後に訪れたボランティアやファンらの激励メッセージ=写真左=が書かれていた。館員は来ていて、押し寄せてきた津波の高さの位置を指さし「建物は無事だったが、扉を破って津波が内部は泥と瓦礫で埋まりました。再開は2012年の後半になるでしょうが、それまではインターネットなどで発信を続けていきます」と話していた。(帰阪後にサイトを見ると、頻繁かつ丁寧に更新されていて、兵庫県宝塚市の手塚治記念館で企画展「“萬画(マンガ)”〜石ノ森章太郎の世界〜」が開かれていることもこのサイトで教えてもらった)。

 1880年に建てられ現存の木造教会では日本最古という旧石巻ハリスト正教会も倒壊はせず、保護の囲いにおおわれながら修復の日を待っている。
 中洲の河口よりに「自由の女神像」=写真右=が立っていた。石巻では中洲をニューヨークのマンハッタンに見立てて「マンガッタン」と呼んでいるが、この像はマンガッタンの象徴。津波の破壊力で左側は高さ5mのあたりまでえぐられて痛々しいが、右手にトーチを掲げて立ち続けている。

  ◇ふれあいマーケットに豊かな特産品

 飲食店の多い通りから駅に戻った。石巻も金華山沖を漁場にひかえ寿司店が多い町だが、震災前の観光マップを手に訪ねても大半は再開に至らず、建物が壊れて連絡先をベニヤ板に書いたままで無人の店もあった。塩竃と違って漁港も大きな被害を受けたので一層難しい状況なのだろう。

 それでも営業している店があり、5月に再び店を開いた中華料理店では「再開記念特価300円」のラーメンも出している。B級グルメで人気の「石巻き焼きそば」を注文すると、黒っぽい細い麺の上に目玉焼きを乗せており、なかなかボリューム感もあった。

 商店街わきの駐車場では「ふれあいマーケット」という大きな看板を掲げた仮設商店街ができていて、プレハブの商店十数件が店開きしていた。ホヤと仙台味噌をあわせた水産加工品の「ほや味噌」、角切りの大根漬けにからしを効かせ、青じその葉で巻いた「深谷からし巻」などの特産を、地元の人に解説してもらいながら買うのは楽しい。

 市街地から離れていて今回は行けなかったが、、伊達政宗がメキシコ、スペインに派遣した支倉常長が乗った帆船を復元・係留展示した「サン・ファン館」もある。帆船は震災で損壊しながらも残っていて、館とともに再開をめざしている。

 町全体としては、松島町や塩竃のように「観光で復興支援」といえるような段階や態勢にはなっていないし、観光客として歩くにはまだ気が引ける雰囲気だ。それでも、萬画館や商店街で聞いた人々の意気に「再オープンした萬画館やサン・ファン館を見にまた来たい」と思った。
                                  (文・写真 小泉 清)

                        ◇

 2012年が明け、宝塚市の清荒神に初詣した後、宝塚市立手塚治記念館を訪ね企画展「“萬画(マンガ)〜”〜石ノ森章太郎の世界〜」を見た。これまで知らなかった初期作を含め分野を問わない石ノ森の作品が紹介され、一部はアニメとして上映されている。手塚との交流では、石ノ森実験的作品に手塚が脅威を覚えたとい緊張した関係も含めて取り上げられている。石ノ森萬画館の被災状況や復旧の模様もパネルで紹介しており、阪神大震災で大きな被害を受けた宝塚ならではの企画展となっていてお薦めだ。水曜休館で2月20日まで。

  
   ★北の海の恵みたっぷり 塩竃に港町の明るさ 

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