★北の海の恵みたっぷり 塩竃に港町の明るさ |
松島湾の西側の町・塩竃に戻り、23日早朝は北の海の豊かな魚種がそろう塩釜水産物仲卸市場を訪ねた。
塩釜港に隣接した市場には4950平方メートルの広い敷地に367店が並び、土曜日でも午前7時半には小売業者のほか、買い付けに来た一般の消費者、観光客であふれかえっている。塩釜は近海マグロの水揚げ日本一を誇るだけに、マグロはホンマグロ、メバチ、カジキと豊富だが、北の漁港ならではの魚も多くて面白い。カレイと形は同じだが、大きくて白っぽく、表面がヌメヌメしたヌメタ。卵のあるメスで一尾3500円と少し高価だが、仙台では正月に使うめでたい魚と聞き、手を出してしまう。鮮魚のほか金華山サバの乾物、伊達政宗ゆかりの伊達巻、ササカマボコ、チクワが安く大量にあり、これはこれらは正月向けに買い込む。
乾物店のご主人は「この市場は津波の被害がほとんど受けませんでした。水道、電気は止まったので近くのテントで営業を続け、他では何も売っていない状況で喜ばれました」と話していた。この市場には塩竃だけでなく、東松島市、七ケ浜町など津波被害が大きかった隣接地に住む業者も来ている。「津波で家も流されたけど、やるしかないから」と東松島のおかみさんは話していた。
市場を堪能した後、町の起こりとなった由緒ある鹽竃神社を訪ねる。表参道は202段の急な階段。野球のユニフォーム姿の中学生が階段前に並び、「おはようございます」と元気にあいさつしてくる。「ここでトレーニングするん」と尋ねると、「階段を毎日20往復します」ということでびっくりした。この急な坂を3月の帆手祭で神輿が駆け下りると聞いて、これも驚きだ。
この石段を登って本殿に向かうと、タラヨウの大木=写真左=が大きな赤い実をいっぱいつけていた。樹齢330年とされ宮城県の天然記念物。ふつう西日本の太平洋岸で見られる常緑樹なので、東北地方で見ると、実がひときわ鮮やかに見える。東側からは松島湾の眺望=写真右=を望める。
漁港の町だけに、塩竃は寿司や日本酒も見逃せない。店が倒れ、仮設ビルで4月29日に再開した寿司屋は行列ができている盛況で、確かにそれだけの味はある。「浦霞」の蔵元前の道を通ると、商店主らが「浦霞」の酒粕を使った汁を振舞ってくれ、商店街の200円分の買い物券もいただいた。続いて、商店主らしい人が20人ほどの旅行者を引率して商店街を歩いていたので尋ねると、東京・立川市から来た「被災地支援ツアー」を受け入れているとのこと。被災の状況を説明しながら買い物をしてもらう仕組みで、いろいろ積極的に取り組んでいるようだ。
これまで名前くらいしか知らなかった塩竃だが、関西と縁がないこともない。道路の碑によると、「宇治拾遺物語」や歴史書でも塩竃の名がよく登場している。朝の仲卸売市場では「若いころ大阪の建設会社で働いていました。塩竃と気風が似ていて、開けっぴろげで気軽に声をかけてもらっていたので、楽しく過ごせました」と店主からいわれ、私の方も塩竃が明るく、身近に感じられてきた。
(文・写真 小泉 清)
★石巻・マンガッタンに再開の春遠からじ
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