健やかな成長願う ねんねこ祭り 和歌山県串本町田原   

・時期 毎年12月第1日曜日
・交通 紀勢線紀伊田原駅下車すぐ東。ただし同駅は特急が停まらない。特急停止駅の古座から普通電車か串本町コミュニティバスで。古座駅前の南紀串本観光協会でレンタサイクルを借りれば田原での移動が便利

・電話
 
木葉神社(0735-74-0470)
南紀串本観光協会 古座(0735-72-0645)
    =2023年12月2、3日取材

おひつを頭にのせた御飯持ち巫女。宮司の鈴の合図で拝殿から朝日遥拝所に一歩ずつ歩む 
 
 
 和歌山県串本町田原の木葉(このは)神社で、子どもの健やかな成長を願うユニークな祭事「ねんねこ祭り」が初冬に行なわれるという。コロナ禍による見送りでなかなか実現できなかったが、2023年は4年ぶり開催と確かめ、宵宮の12月2日、田原に向かった。

 4年ぶり朝日遥拝行列、おひつ載せた女児が主役

  特急「くろしお」の停まる紀勢線古座駅で下車、レンタサイクルを40分こいで昼過ぎに田原駅前に着いた。東隣の木葉神社を訪ねると、役の人たちが集まって準備にかかっており、宮司の井谷正守さんにごあいさつした。

 3日の本祭の「朝日遥拝行事」はコロナ前の7時開始を8時に遅らせ、今年は女児による巫女舞は行なわないなど無理のない形で実施されるとのこと。行列に参加する児童や生徒も神社に到着、正装に着替えて所作や口上の確認を繰り返していた。荒船海岸を自転車で周って夕方4時ごろ神社に立ち寄ると、奉仕者と神社役員が集まって宵宮祭を実施。簡素化といっても、段取りを踏み、事前準備がおこたりなく進められているようだ。

 翌3日朝、日の出時刻の6時40分ごろ、田原川河口部付近で運よく朝日に照らされた海霧=写真上=を見た後、その足で神社に向かった。「未明の津波注意報でよく眠れなかった」といいながら奉仕者や神社役員が午前7時に集合。「朝日遥拝行列」=写真下=の衣装を身に着けて隊列を整え、午前8時10分に社殿前を出発した。

◇鈴一振りで一歩、独特の歩みしっかりと

 先頭は、頭に榊の葉の入ったおひつを載せた御飯持ち巫女(みこ)。地元の串本町立田原小3年の9歳の女児が務める。斎主の井谷宮司が鳴らす鈴の一振りで一歩ずつ進むというゆっくりした歩き方。鳥居をくぐって社殿から150mほど離れた遥拝所に向かう。後には最長老の83歳の男性が務める大幣差し、宮司、隣の古座神社宮司が務める神官、御幣を持った御幣差し3人・童子2人が続く。中3の御幣差し、小6、小3の童子の正装姿が決まっている。

 出発から50分ほどで御飯持ち巫女が遥拝所に到着。宮司がおひつを受け取り、遥拝所に供え、祭文を読み上げた。南紀といっても冷えこんだ朝、巫女役の女児は母親らの介添えを受けながら、しっかりした所作で歩んでいた。お母さんは「親子そろっていい体験ができました」と話していた。

◇子育ての仕草、素朴な子守歌に心なごむ

  この後、本殿大前の儀に続き、拝殿に上がって「子守の神事」。まず弓取りの行事が行われ、宮司が折り紙の鶉(うずら)を竹の矢で射つ。鶉は害鳥とされるので五穀豊穣を祈る神事だ。この後は御幣差し・童子の5人が活躍。みかんとこうじが置かれた巻ござをはさんで、最年少の小3の男児が、宮司の「みかん食らおか」に対し「こうじ食らおか」などとやりとりする「みかん問答」=写真右=を朗々とした声で行なった。

 さらに布団を表すござ、丸い形の赤い枕、乳房をかたどった布袋と子育てに関係した三つの品を、宮司と5人がかわるがわる担って舞う。この時唱えるのが「ねーんねこ ねーんねこ おろろんよー」の節。日本の子守歌の原形ともいわれ、素朴な調子に心が温まる思いだ。

◇少子化進んでも 地域盛り上げる祭りずっと

 午前10時前には子守の神事が終了、その後は勇壮な獅子舞の奉納があり、「天狗の舞」「扇食い」などの演目が2時間半にわたって演じられた。「田原の獅子は古座と違って雌でなく雄。源流は同じでも独自の獅子舞なんです」とのこと。笛や太鼓の役は女性も担っている。

  今回は御幣差しとして朝日遥拝行列と子守神事に参加した中学3年生に尋ねると、もともと獅子舞の天狗役を務めてきたという。道理で身振りも声も堂々としていて、絵になっている。寮のある田辺市の高校をめざし、「祭りの時は帰ってきて参加したい」と心強い。

 祭事を終えた井谷宮司は「子どもの数が少なくなり安産祈願も減っていますが、子どもをすくすく育てたいという願いはいっそう強まっていると思います。どういう形で行なうか、来年は巫女舞も復活できるかなど考えながら、祭りはずっと続けていくつもりです」と話していた。

 祭りが終わって締めのあいさつをしたのは田原区長でねんねこ祭り保存会長の筒井政士さん(72)。筒井さんは会社員として東京、北海道、中国で勤務し定年後妻子とともに帰郷、今春区長に選ばれた。「現況をにらみ変えるべきこともありますが、ねんねこ祭は田原の住人がまとまる場として守るべきもの。中断が3年以上に渡ると伝承が危うくなる」と再開を強く呼びかけてきた。

 串本町でも東端で人口減が厳しい田原地区だが、宇宙ビジネス企業「スペースワン」が山林に民間ロケット発射場を建設。祭りにも同社のスタッフが訪れていた。2022年末だった打ち上げ予定は4回延期されているが、筒井さんは「ロケット発射が進んでいる北海道の大樹町では関連の仕事のすそ野が広がって人口が増えています」と今後に期待を寄せていた。
 
 子どもから若者、壮年、お年寄りと田原の人々が並び、光を浴びて一歩一歩と前に進んでいく朝日遥拝行列の光景が思い浮かぶ。  (文・写真 小泉 清)

★高校中退し単身渡米、85歳で帰郷の女性が英語発音教室= 2023.12.3取材

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