☆遠望近景

<美女坂>

<百四丈の滝>

<ニッコウキスゲ>

<ハクサンコザクラ>

<ハクサンシャクナゲ>

<ミヤマリンドウ>

<大汝峰山頂>


季節を歩く

白山・加賀禅定道の高山植物

      ◇案内情報

・花期  種によって異なるが、7月下旬〜8月上旬が多い

・交通 JR金沢駅東口から北陸鉄道バスの白山登山バスで瀬女(せな)へ、白山市コミュニティバスに乗り換え温泉口下車。

・電話  白山観光協会(0761・93・1001)、白山市尾口支所(0773・276・1111) 

      2011年7月31日、8月1日取材


  

石川県白山市

  白山の北側山麓・白山一里野から山頂に達する加賀禅定道(かがぜんじょうどう)を上がった。平安期から修験者らが登拝してきたこの道は一日では登りきれない遠路だが、ブナやシタビソの林を抜けて高山帯に進むと、池の周りの湿原や岩場には、、ニッコウキスゲ、チングルマなどの高山植物が咲きそろい、別天地のようなお花畑が広がっていた。

  長い急坂踏み越えると別天地が見える 

 7月31日朝、一里野温泉の先から県道を新岩間温泉の方に入り、ハライ谷を越えて東側の尾根に取り付く。植林の間の急坂を登り続けると、標高1300mあたりからブナ林。幹周り4mを超す木もあり、豪雪地・白山ならではの樹林だ。やがて「御仏供水」の立て札がある。ここから先の尾根道は昔も今も水場が乏しいということで、谷筋に下りて貴重な水を汲み上げる。

 登山口から3時間余りかけようやく第一関門の檜新宮(ひのしんぐう)に着く。1982年に地元の尾添区の願いで再建された社がヒノキの大木に囲まれているだけだが、もとは修練の建物が並んでいたという跡もある。

 一里野スキー場の上からつけられた加賀新道が合流する「しかり場」で標高1549m。女人禁制当時もこのあたりまで女性が登り、白山を遥拝したといわれる。現在は一里野からこの二つの道を周回する森林ハイキングコースとなり、これだけでも十分歩きがいはあるだろう。

 長倉山(1660m)を越えるころから高山の様相が感じられ、樹木もダケカンバやシラビソが主になる。ゴゼンタチバナやヤマハハコのような高山性の植物も姿を見せ始める。御前峰にちなむ名のゴゼンタチバナは、花びらのように見える白いガク片がさわやかだ。午後4時前に奥長倉山頂の避難小屋に着く。スタートから6時間あまり歩いてもで山頂まで半ばにも達していないが、本日の行程はここまで。午後2時半ごろから雨が降り始め、小屋に着いた直後から激しくなってきたため胸をなでおろした。
   

    ◇雪渓の雪解けに合わせて咲くチングルマ                    
     
 深夜から未明にかけてバケツをひっくりかえすように降った雨も上がり、8月1日は朝6時半に小屋を出て、さっそくコース最大の難所とされる美女坂の急坂にかかる。この美女坂は、白山で酒を売ろうとした老女に連れられて来た美女が、女人禁制を破った罰に岩にされたという伝承からついた名。禁制の厳しさを示すための説話だろうが、これからという場所で岩にされてしまっては美女も浮かばれない。もっとも、こうした因習にとらわれずに自らの力を信じて活動しようとした女たちが北国には結構いたのかもしれない。
 
  坂を登りきった美女坂の頭(1968m)を越えると、いよいよ高山となり、ニッコウキスゲが登場する。雨に打たれた潅木や笹の葉の間の朱色の花が鮮やかだ。 白山山系で最大級といわれる百四丈滝を見るのも、このルートを選んだ理由の一つ。縦走路から少し西に入った展望台に立つと、谷をはさんだ対岸の清浄ケ原から流れ落ちる滝がくっきりとらえられた。落差は百四丈(300m)とまではいかないが90m、滝つぼから飛沫がはじける様子もうかがえ、白山ならではの雄大な光景だ。

 ここから天池(あまいけ)あたりまでは、小さな池が点在する湿地性の草原や岩場にお花畑が広がる高山植物の核心地。ニッコウキスゲやハクサンフウロが大群落をつくり、ハクサンイチゲ、カライトソウ、ミヤマダイモンジソウなどの花が次々と現れて撮影しきれない。うつむき加減のクロユリも草地にまとまって現れる。

 特によく目立つのはチングルマ。小さくても落葉木で、黄色い花芯部と白い花びらが遠くからもよくわかる。茶色っぽい羽毛のような実がついた群落もみられ、花から実への様変わりが面白い。チングルマは「雪渓の雪解けに合わせて咲き、雪が早く解けた場所から開花して実になるので、同時期に花も実も見ることができます」。薄紅色の房状の花のコイワカガミやアオノツガザクラは、チングルマと混じってよく咲いている。

 天池の手前に石垣が見える。案内板がなく見過ごすところだったが、天池室(むろ)跡と呼ばれ、江戸末期まで登拝者が途中の宿泊に使ったといわれる。登山の先輩の息づかいが感じられる場所だ。

 ◇ハイマツ帯の苦登にハクサンシャクナゲ

 点在する池も終わり、かめわり坂、長坂と四塚山(よづかやま)までの登り一方の坂が続く。主な植生はハイマツだが、心がなごむのはハクサンシャクナゲの花。真っ白な花が多いが、薄紅色を帯びたものもある。すでに散っている木もあるが、高度を上げるに従って花が多くなり、昼の日差しの中の苦しい登りを励ましてくれる。

 標高差400mの坂を終えて四塚山(2520m)に着く。泰澄上人の弟子が化け猫を封じ込めたという四つの石塚が並ぶちょっと不思議な雰囲気を感じる場所だが、氷河周辺の地形が残り、チングルマやコイワカガミのお花畑を再び見ることができた。

 北からの岩間道、南西からの釈迦新道と合流し、8月にも残る雪渓の横を通り過ぎると、そこは白山山頂域。方位を確かめながら、主峰のうち最も北の大汝峰(おおなんじがみね)(2684m)の頂上をまず踏んだ。イワギキョウやイワツメクサが生息する岩場に立つと霧が広がって御前峰と剣ケ峰も姿を現した。

 宿泊地の室堂に着いたのは夕方の4時。きょうだけで9時間半、昨日を合わせると登山口から16時間もかかったことになる。そうは言っても、距離が長く標高差も大きいハードなコースを選んだからこそ生息環境の変化があり、種類も数も豊かな植物を楽しめたのだろう。翌朝、室堂から御前峰(2702m)の頂に登って御来光を拝み、加賀禅定道が越えてきた峰々を振り返った。
                            (取材・撮影  小泉 清)

        下山は越前禅定道で市ノ瀬へ

          ★       霊峰を1日で上り下りして一人前に

白山加賀禅定道の高山植物
長い加賀禅定道を天池付近まで登れば、チングルマやコイワカガミのお花畑が広がる