三陸の海間近に鯨山    岩手県大槌町〜山田町      

・時期 降雪期以外なら一般的に歩ける

・交通
大槌町側は三陸鉄道浪板海岸駅からすぐ歩ける。山田町側は三陸鉄道岩手船越駅まで(から)歩いて1時間半
・電話  大槌町観光交流協会(0193-42-5121
岩手県立陸中海岸青少年の家(0193−84-3311)
    =2025年9月13日取材

大槌町側から鯨山山頂に到達。湾の眺望は得られなかったが、鯨山神社奥宮に参拝した
 
 
 三陸の海に面し、岩手県大槌町と山田町の境に立つ鯨山(610m)。名前に惹かれて9月13日、大槌町から山頂に立ち、山田町側に下りた。さらに「みちのく潮風トレイル」を北上し、牡蠣の養殖筏が浮かぶ山田湾に向かった。

 林間の急登、鎖場、トレイル歩きで豊饒の海へ

  昼から雨との予報が出ていたのと暑さ対策で、朝の6時に浪板海岸の民宿を出発。三陸鉄道を超え「風の電話」に寄って山道に入った。「熊出没しています」の看板に熊鈴だけでは心配になり、レコーダーに残っていた万博イベントの音楽を鳴らして進んだ。荒れ気味の山道も、標高400mを超え七合目、八合目と進むと、ブナ、ミズナラ、ツツジ類の木々が続き、急坂も苦にならない。新緑や紅葉の時期はさらに楽しいだろう。

◇頂に奥宮、湾の眺望はお預け
 
  8時半に二等三角点のある山頂に到達。本来なら大槌湾、船越湾と三陸の海が一望できるはずだが、間もなく降り出しそうな空の具合では、想像するしかない。他日を期して鯨山神社の奥宮に参拝した(本社は南西山麓の不動滝前にあり、翌日に訪ねた)。

 下山はいきなり頂上直下の崖から始まる=写真上右。鎖やロープが頼りだが、足場がしっかりしてるとわかると安心、程よい緊張感で良かった。やがて林間の緩やかな尾根道となり、きれいな松林が見えてきた。カラマツかと思ったら、岩手県に多いナンブアカマツ(南部赤松)=写真下左=で、近畿で見る赤松より背が高くて強靭だそうだ。11時前に山田町側登山口の岩手県立陸中海岸青少年の家に下り、鯨山の植生や先のルートについて教えてもらった。

◇工事用側道生かした道を快適に歩く
 
 鯨山登山は達成したが、一服後トレイル歩きを続行する。震災後に開通した三陸道の釜石山田道路の工事用側道がトレイル道に活用されたので、車を気にせず、右手に開けてくる船越湾の景色を見ながら快適に歩けた=写真下中。三陸道をくぐって青少年の家から5.5km先の三陸鉄道岩手船越駅には12時半着、鯨つながりで少し足を延ばして山田町立の「鯨と海の博物館」を見学した。

一時は捕鯨基地、町立の鯨博物館も

  
 山田町は終戦直後の1946年から1988年まで捕鯨基地となっており、1987年に三陸沖で捕獲された雄のマッコウクジラ(全長17.6m)の実物骨格標本=写真=が展示の目玉。大震災で館が全壊を受けた時も骨格は無事で、これが館の再建につながった。

 南紀・太地のように江戸時代から組織的な捕鯨を行ってきた歴史はないが、沖合に出た漁師が鯨の山容をした山を鯨山と名付けて航海の目標にしたとも伝えられる。それだけに昔も今も鯨山は沿岸の人々の生活に根差した大切な山で、小学生を含め多くの人が登るのだろう。

◇赤×青の三陸鉄道車両で一駅の鉄旅
  小雨の中を駅に戻って時間待ち。無人駅で駅前にも店はなく、だいぶ前に閉鎖されたコンクリートの山田町観光案内所が寂しい。やってきた三陸鉄道=写真下右=に乗り、出発地近くの浪板海岸駅に向かう。車体を見ると気持ちも明るくなる。万博で一躍人気のミャクミャクと同様、青と赤の取り合わせが鮮やかだ。波板海岸駅まで一駅で320円だが、駅間は6.7kmあり、10分弱の鉄旅を楽しめた。午後3時半には帰着し、運転士さんとさよなら。充実した<山登り×トレイル歩き×鉄乗り>だった。   (文・写真  小泉 清)

                   ⇒トップページへ