★能登半島地震1年半、つながり大切に一歩一歩 石川県珠洲市       
 
  2025年も折り返しの6月27、28日、能登半島先端の石川県珠洲(すず)市を訪ねた。27日は被災家屋解体前の搬出作業の手伝い、土曜の28日は電動自転車で、中心街の飯田から奥能登きっての景勝地・見附島の先まで海岸沿いの道を走った。美しい景色の前に広がる厳しい現実の中で、残った人、外に移った人とのつながりをしっかり保ち、時間をかけて再興をめざす人々がいた。

◇今年も折り返し 伝承行事の中で子ども育む
 
 昨年1月の能登半島地震で震度6強の揺れと津波を受けた海沿いの街は、建物を除去した更地が広がっている.。まだ解体工事に手が回らず被災時の姿を留めた家屋や商店も目立ち、傾いたままのコンクリート電柱が多く見られた。海の玄関口・飯田港も津波で岸壁が破壊され、復旧工事中だ。

 そうした街中の小さな広場に七夕が飾られ、子どもたちが集まっておにぎりを食べたり、ガチャポンで遊んだりと賑わっていた。世話役の女性に訪ねると、震災後に始めた「こども食堂」ということだ。

  内浦街道を南西に進むと、グラウンドに仮設住宅が並ぶ上戸小学校が見えた。
「オンノキバというのぼりが立てられ、児童のお父さんらしい5、6人が集まって餃子を焼いていた=写真右。リーダーの方に「オンノキバって何ですか」と尋ねると、「毎年7月1日にかき餅を食べて半年の疲れをとる風習です。昔は固い餅を木槌で割って食べており、その破片を鬼の牙に見立て、鬼の牙のような強い歯でしっかり食べて元気にという願いを込めています」と説明してもらった。児童は、地元の菓子店手づくりのオンノキバを持ってまわり、仮設住宅に住むお年寄りらに手渡して学校に集まっているそうだ。

◇プレハブ社殿で神事、今秋の祭りには神輿を

 「そういえば6月末には、茅の輪くぐりをしていた」と思い出しながら走っていると、道沿いの柳田神社にその茅の輪が設置されていた。カラコロと回る風車の音を聞きながら、地震に耐えたコンクリート柱2本が残る鳥居から境内へ。夏越の祓(なごしのはらい)なので作法に沿って茅の輪をくぐり、今年の後半戦に向け気持ちを新たにした。

 社殿はどこかと探していると、家族の方にプレハブの社殿に案内してもらい、参拝した。太鼓を打っていただいた宮司の櫻井重伸さん(61)は、「震災後に亡くなられたり金沢に避難されたりと地元にいる氏子の方は150人から100人に減っていますが、神事はここで変わらず続けています」と話していた。

 9月13、14日に地元の三社が合同で行なう「上戸の秋祭り」。柳田神社で繰り出していた高さ6mの曳山は全壊、去年は神事のみだったが、櫻井さんは「神輿は無事だったので、今年の秋はぜひ神輿を担いでもらえるようにしたいです」と計画している。

◇金沢に避難の門徒を車で訪問続ける

 
2kmほど進むと道沿いにプレハブのお寺があった。坊守の松下さち子さんが外に出ておられたのでごあいさつし、住職の松下文映さん(78)に話を伺った。 100mほど西側に建っていた真宗大谷派(お東さん)の往還寺(おうげんじ)。地震で本堂は一瞬に倒壊。震災発生時は門徒宅を訪れていた松下住職は山崩れや道路の陥没で帰路を阻まれ、電話も通じずに山越えで5日後に戻ることができたという。

 ご本尊の阿弥陀如来像は埋もれてしまったが、ボランティアが掘り起こして救出してくれた。その夏に本堂や庫裏を解体して更地にし、プレハブの本堂を建ててご本尊を安置。ご荘厳は京都で修復し、4坪ほどの広さでも門徒の心の拠り所となっている。
 「金沢に移った門徒の方も多いので、今年になってからも6、7回は車で通って回っています。時間はかかるでしょうが、みなさんの協力をいただいて再建を進めていきます」と松下住職は語っていた

◇崩落で姿変わっても見附島は残っている


 
亀裂の残る橋を用心して渡り、能登きっての名勝・見附島(みつけじま)を正面に望む松林の浜辺に着いた。震災後初めて来たという県内の女性が10年前撮った写真を見せてくれ、「地震でかなり崩れて、軍艦を思わせるかっこいい姿が見られなくなりました」と残念がっていた。初めて対面する私は「それでも見附島は見附島として残っている」と思い直した。

  震災後1か月で酒造を再開した老舗の蔵元「宗玄」の前を通り、能登町の恋路海岸で引き返した。中心街に戻って中央商店街を通ると、開店している店はまだ数えるほどで人通りも少ない=写真。
   それでも、珠洲市唯一の本屋「いろは書店」は震災2か月後の昨年3月に建てた仮設店舗で営業していた。外見からは何の店かわかりにくいが、中に入るとカフェを併設した本屋となっていてお客さんも次々入って来る。店主さんは「親が80年前に創業、昨年は4月の新学期までに教科書を届けなければと開店を急ぎました」と話していた。地元ならではの本も並び、私も「能登珠洲の民話 引砂のさんにょもん」を買った。

 
能登半島はおろか珠洲市のほんの一部をかすっただけの範囲だが、遠いだけではない能登の奥深さを感じ取れる往復20㎞コースだった。 =2025年6月28日(文・写真 小泉 清)
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*珠洲市への公共交通: 金沢駅西口から北陸鉄道・能登方面特急バス、のと里山空港ですずなり館前行き乗り換え。
●問い合わせ: 珠洲市観光交流課 0768-82-7776、すずなり館 0768-82-4688

 =2025年6月28日取材 (文・写真 小泉 清)

     


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