★茶わん祭再開めざし山作りの技伝える 滋賀県長浜市余呉町 ![]() |
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長浜市余呉町上丹生に伝わる「茶わん祭」独自の「山作り」の技を継承しようと、文化の日の11月3日、新たに仕上げた山車を地元で公開するイベントを開催。秋空に、人形を陶器でつないだ山飾りが浮かび、しゃぎりの演奏が響いた。 茶わん祭は、上丹生の陶器の名工が飾りをつけた作品を神に奉納したという平安時代にさかのぼる祭事。かつては3年ごと、近年は5年ごとに行なわれていたが、地区の人口減や高齢化で2014年5月の開催が最後となっている。祭りには神輿、室町時代の様式を伝える稚児舞、花奴踊りと多彩な要素があるが、一番の見ものは三基の曳山。その山飾りは、一基に山作り工匠3人が門外不出の技を駆使して制作してきた。 地区の人たちでつくる「丹生茶わん祭保存会」(城楽直会長)では、今は難しい状況でも将来の祭り再開をにらむうえで、まず山作りの難技の継承と地元での理解が欠かせないと判断。山車一基の制作・展示を行うことにした。 ◇陶器でつなぐ人形、バランス絶妙の山飾り ![]() 完成した山車は、3日午前9時半から「茶わん祭の館」前の広場でお披露目。午前11時には山笛、太鼓、鉦の「しゃぎり」のメンバー10人が、山車に上がって演奏した。独特の「新車」に続いて、御旅所の八幡神社の上り坂を上がる時の威勢のいい「龍のおとし」が奏でられ、そして山飾りを支えていた竹竿を外すクライマックスの「サス外し」。見事に決まって高さ10mの山飾りが絶妙なバランスでぴたりと止まると「祇園ばやし」が演奏された。 しゃぎり演奏とサス外しは午後3時にも実施。解説に当たった城楽会長は「これを機会に祭り開催の機運が盛り上がっていけば…」と期待を込める。一方、メンバーの高齢化等により、もっと若い世代に一人でも二人でも参加してもらう必要があるとして、「少子化といっても、子どもたちや若い人もいるので、どんどん加わってもらうことも地域の課題です」と呼びかけた。 山作り工匠の一人、西山譲治さん(64)は、70、80歳代の工匠が現役を引退することで50を過ぎてから山作りに加わった。「前々回の祭りから山を作っており、上丹生で山を見てもらうのは9年前の祭り以来。地元の人あっての祭りなのでうれしいです。他にはない祭りで、誇りをもってやっています」と話していた。 ◇難しくても気持ち高まる曳山のしゃぎり ![]() 城楽芳彦さん(68)は、銀行で営業職をしていた50代の時に太鼓に欠員が出たと誘われた。「丹生にいるからには…と入りましたが、すぐに2014年の祭りになり、まったく自信がありませんでした。でも、山車に上がってしゃぎりを始めると、多くの人が聴いていることを全身で感じて、すごくいい気持ちになりました」と話した。 本来、各曳山に笛3人、太鼓1人、鉦1人が上がり、山3基で15人のしゃぎりメンバーが必要だ。現在、道笛経験者が吹き方のずっと難しい山笛を習い始めている。毎年丹生神社祭礼の宵宮の5月3日夜には「家にいる地区の人にも聞こえるように」と「茶わん祭の館」に集まり、しゃきりを奏でている。 地元で山車に上がってしゃぎりを奏でたのは前の祭り以来。加茂さんは「いくつになっても緊張します」といいながら満足げだった。 ◇地域の自然生かした新しい展望も ![]() 閉会後、高時川にかかる赤い橋を渡って丹生神社に参拝。2014年5月4日の「茶わん祭」を見た時に「山あいの小さなむらが、これだけの豊かなまつりを行なうとは…」と驚いた記憶が甦った。地域の力で、新しい時代の「茶わん祭」を再び見せてもらいたいと願った。=2023年11月3日取材 (文・写真 小泉 清) ★上丹生の茶わん祭=2014.5.4取材 |