震災10年半、甦る「ホエールタウン」鮎川 宮城県石巻市      

・時期 おしかホエールランドは原則水曜休館


・交通
公共交通機関は、JR石巻駅からミヤコーバス鮎川線で終点鮎川港下車。本数は少ない
・電話  おしかホエールランド(0225-25-6422、石巻観光協会(0225-93-6448
    =2021年7月31日取材

マッコウクジラの骨格標本。全長16・9m、津波で変色したが復元された
 
 
 2011年3月11日の東日本大震災で特に大きな被害を受けた宮城県東松島市、石巻市を7月末、6年ぶりに訪れた。牡鹿半島の先の鮎川港(石巻市鮎川浜)では「おしかホエールランド」が再開して1年、鯨に情熱を注いできた人々が、鯨と鯨が生み出す恵みについて熱っぽく話していた。

   全壊・流出乗り越え、鯨の魅力多彩に

 2015年5月に全線運転が再開された仙石線に乗って終点の石巻駅で下車、駅前からミヤコーバスに乗った。牡鹿半島の海岸線に沿って走ると、海岸線で震災復旧工事が続いている。1時間15分ほどで終点の鮎川港に到着した。

 2015年5月に訪れた際は更地が広がり、捕鯨船だけが残っている殺風景な風景だった。かさ上げ地の防潮堤上に鯨の博物館「ホエールランド」と「牡鹿半島ビジターセンター」、 観光物産交流施設の「Cottu(こっつ)」が一体となった「ホエールタウンおしか」が広がっていた=写真。

 まずホエールランドに入ると、体長16・9mのマッコウクジラの骨格標本が迎えてくれる。セミクジラ、ナガスクジラ、ミンククジラの耳小骨など細かい標本、捕鯨で使ったモリや包丁などの道具もたっぷり展示している。

 江戸時代から古式捕鯨が行われてきた和歌山県太地町と違って、鮎川は1906年(明治39年)に東洋水産が金華山沖でのノルウェイ式捕鯨での操業を狙い、作業場を設けた「近代捕鯨の一大拠点」。1930年代からは南氷洋での捕鯨へ向かう基地となり、戦後盛況が続いた。国際捕鯨委員会(IWC)が商業捕鯨を全面禁止した1988年からは限られた枠でミンククジラを獲る調査捕鯨と、規制対象外のツチクジラ捕獲の拠点に。日本のIWC脱退で2019年7月に商業捕鯨が再開されたばかりだ。

  ◇「解剖一筋55年」捕鯨船での体験語る

 ホエールランドでは、曲折のある鮎川の歩みを、生き生きした写真や資料で紹介するが、何よりも心強いのが「鯨の語り部」奥海良悦さん(80)。18歳の時に極洋捕鯨の捕鯨船に乗ってから、鯨の解剖一筋の人生を歩んできた。石工だった父が病死、貧しい暮らしから脱け出そうと知人のつてで給料の高かった南氷洋向け捕鯨船に乗った。「九州をはじめ各地の鯨ゆかりの地の先輩がいて、『こいつは見どころがある』と包丁さばきを教え込んでもらい、5,6年して一人前と認められた。南氷洋へは11月から4月までの5か月間。このほか北大西洋にも出たので、鮎川に戻るのは2か月くらいだった」。

 奥海さんには「解剖は捕鯨の核心部」という強い誇りがある。「赤身でも、ところによって微妙な違いがある。手早くきちんと切り分けていかないと、うまく流通に乗せられず値が付かない」と長年の経験と勉強で作った解剖図で説明してもらった。40歳でリーダーに。このころになると捕鯨枠が縮小し共同捕鯨に統合されたが「解剖なら奥海のやり方が一番効率的と採用された」と振り返る。

 調査捕鯨に転換後も調査捕鯨母船「日新丸」の製造長となって、解剖、冷凍などを含む製造部門を統括。60歳で定年退職後も、鮎川の会社に頼まれて沿岸調査捕鯨の員長を務めた。75歳で「後継者もできたし後は自分の時間を」と船を下りた。55年以上解剖に携わり、大包丁を握ってきた奥海さんの右中指は曲がったままだ。それでも「海を見ていると、船に乗りたい、南氷洋に行きたいと思ってしまう」と奥海さんは話した。

  ◇南氷洋で活躍の「第16利丸」、近く乗船再開

 「おしかホエールランド」は牡鹿半島の地域振興の目玉として1990年にオープンしたが、東日本大震災の津波で建物は全壊。2020年7月に再生オープンした。マッコウクジラの標本など流出を免れた収蔵品を修復して生かしているが、タッチパネルでの映像表示などわかりやすい展示方法を取り入れた。展示をヒントにしたクイズを解きながら回っていると、結構難しく2時間を過ぎてしまった。

 館外の海辺では、かつて南氷洋で活躍した捕鯨船「第16利丸」の修復作業が進んでいた=写真。コロナの影響で今月末までの工期予定が遅れているが年内には完了、再び甲板に上がれるようになるそうだ。

 首都圏を中心にコロナの拡大が続いているので、今は宮城県内の家族連れが大半なようだ。奥海さんや学芸員も気軽に話しかけて説明しているので、大人も子どもも楽しみながら鯨を学んでいる。

 隣接した「Cottu」(コッツ)は「こっちへおいで」という意味。鯨料理を出す飲食店や、鯨の歯を使った鯨歯工芸店が入っている。「ホエールランド」で展示や解説を見て店に寄れば、鯨の魅力を多面的につかめる。コロナが一段落したら、広く人々を惹きつけられる場となるだろう。  (文・写真  小泉 清)



   
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  【参考図書】 赤嶺 淳「鯨を生きる」吉川弘文館 2017