「密でない 海に開いた田舎」に今着目                                 
 カナダミュージアムとともにNPO「日ノ岬・アメリカ村」が運営するのは、レストラン「すてぶすとん」とゲストハウス「遊心庵」だ。ミュージアムで学んだ後、引き続きNPO理事の安藤妃史さんにランチに連れて行ってもらった。

  ◇カナダ移民にちなみ「すてぶす丼」
 

 「すてぶすとん」は、工藤儀兵衛に続いて三尾の移民がサケ漁に励んだホームタウン・スティブストンにちなんだ店名。美浜町公民館三尾分館の二階をカナダ風に改装して2018年夏にオープン。ゆったりしたスペースで海を眺める開放感が魅力だ。

 オリジナルなおすすめメニューとしては、カナダ移民ゆかりのサーモンに、中紀ならではのシラス、梅肉をあしらった「すてぶす丼」=写真右、メニューから。ただ、週末限定ということでこの日はなく、サケがらみで「サーモンフライ定食」=写真左=をいただいた。

 構想段階では、地元で獲れた水産物を売り物にしたレストランを目指していたが、これは水産流通の制約があって実現に壁があった。山と海に挟まれた三尾の場合、畑地が限られるので、農産物も地元産品をアピールしにくいのが難いところだ。

 来客の面では明るい材料が出ている。安藤さんにうかがうと、4、5月はコロナで閉めていたが、6月の再開後は海岸沿いに走るツーリング客らがよく寄っている。京阪神からも手軽に来られ、人が押し寄せる観光地と違って密もないという点が着目されているという。美浜町など県道24号線の3町が観光振興策としてカナダミュージアムなど5施設を訪れれば500円分の優待券をもらえるキャンペーンを行っていて、その券を使って「すてぶす丼」のテークアウト弁当を利用する人が多いそうだ。

 「すてぶすとん」「遊心庵」運営担当の左留間豊幸さんは「来店者の増加が軌道に乗れば、メニューの充実も進めていきたい」と話していた。中紀あたりはちょっとしたランチを楽しめる店が意外と少ないので、アメリカ村ならではの味の展開を期待したい。

 ◇若手グループに人気の邸宅ゲストハウス

   
その左留間さんの案内で、「遊心庵」に上がらせてもらった=写真左。三尾からカナダに渡ってサケ漁で成功した田中松蔵氏が昭和8年に建てた和洋折衷の邸宅で、カナダミュージアムとともに国の登録有形文化財に指定されている。寝室4部屋にダイニングキッチン、浴室のある一棟貸し切りで、4人以上なら一人4000円で泊まれる。庭があり、床の間には壷や掛け軸もあって落ち着いた雰囲気に浸れそうだ。建物は所有者が変わり、海水浴客でにぎわっていたころは民宿で使われていたが廃業。法善寺に寄進され、現在は寺の厚意で活用させてもらっている。「遊心庵」の看板の字も住職さんの揮毫だ。

 ここも今夏は昨年を上回る利用者があったという。「「いなか」「一棟貸し」といった言葉を連ねて検索して知った女性からの予約もあり、意外と20、30代の若手グループの利用が多かったそうだ。「鍵の受け渡し時以外は管理人と接触する必要もない。風通しのいい広々とした邸宅を自由に使えるということで、若い人も利用しよいし、コロナの状況の中では安心感があるのでしょうか。縁側や床の間があるこうした邸宅が新鮮に映るのかも…」。

 コロナが広がり始めた春先に「1か月間借りられないか」という問い合わせもあったが、これは休業の可能性が出てきたこともあり断ったそうだ。「通信環境も整っているので、リモートワークに使ってもらえないか研究中です」と左留守間さんは話している。


◇「身近で自然楽しむ志向」に展望
 

「遊心庵」のすぐ近くに、空き家を片付けて再生したレストハウス「ダイヤモンドヘッド」がある=写真右。和歌山市で8年間パブを開いていた大江亮輔さんがバーも併せて営業=写真左、個人のパイプを生かして近隣の浜でも食材を調達している。釣りやサップ体験も行い、大阪方面からリピーター客も増えているという。今後について「これからもコロナによる変化は続き、近くで自然を楽しむという志向は強まっていくでしょう」と積極的な見通しを語っていた。
 中紀は南紀と比べて和歌山市や京阪神からのアクセスはいいのに、行く先としての魅力があまりアピールされていない印象があった。コロナをチャンスにとは言いにくいが、一つのきっかけにして「日ノ岬・アメリカ村」への来訪者を伸ばせればいいことだ。「アメリカ村の名も知らずに来る人がほとんど」なのが実情のようだが、まずここに来てカナダ移民の歴史を初めて知るというアプローチもありだろう。  
  
    
 (文・写真 小泉 清)=2020.11.25取材
  

本文 カナダミュージアムでたどる移民の人生 =2020.11.25取材

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