生石ケ峰のススキ 和歌山県紀美野町 | ||||||||||
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近畿きってのススキの名所、生石ケ峰(おいしがみね、848m)。由緒ある社寺に立ち寄り、植林と自然林の混じる山道を上がっていくと、頂上に向かう稜線に銀穂が広がっていた。 多彩な木々の道上がると銀穂の波広がるバスの便が不便になったので、和歌山県紀美野町の奥の集落、小川宮まで車で入った。小川八幡神社の前の道を梅本川沿いにたどり、小橋を渡ると山道に入る。要所要所に小川地区寄合会の道標がつけられているので安心だ。しかも、木々には小川地区連合会が名札をつけ、「タカノツメ 冬芽が鷹の爪に似ています。新芽は食用になります」と説明まも書いてくれているので勉強になる。地元の人の山への愛着と外からの登山者への気遣いがうかがえて嬉しい。40分ほど歩くと林道と出合って、真言宗の大観寺が見えたので参拝する。お寺の奥様が道端で枝葉のかたづけをしておられた。「台風21号では電柱が倒れて1週間停電。台風に備えて冷蔵庫にため込んだ食べ物も、全部捨ててしまわなあかんようになりました」。登山ルートに面したお寺なので、登山者の頼りになる大黒さんだ。実際4人連れの登山グループの一人が携帯電話を落としたと、このあたりで探し回って大変だったそうで「携帯落とさんように気をつけなあかんよ」と注意してくれた。「国体の近畿予選の会場になったことがあり、女子高生も15キロ分のレンガを積んで登って行きました。帰りに、『ススキの広がる山はほかにもあるけど、ここが一番広々として良かった』と言ってました」と顔をほころばせていた。 シラカシの大木の前を通って再び山道に入る。杉の植林地が続くが、このシラカシ、アラカシ、アカシデ=写真左=、ウラジロノキと樹種は豊富だ。アカシデは色づき始めていて、紅葉が楽しみだ。道沿いにはきみの町消防署の「119番ポイントカード」が建てられている。遭難やけがをした時の居場所を知らせる番号が目的だが、併せてクイズと答えが交互に書いてありおもしろい。 ◇海望める眺望、リンドウなど秋の草花も標高700mを超えて緩やかになると、レストハウスのような建物が見えてくる。国民宿舎は廃墟になっているが、向かいのプレハブ作りの山荘前に夫婦がおられたのであいさつ。64歳で退職されたときに土地を買って建設、17年間和歌山市から通って週末生活を過ごしているという。購入当時は別荘ブームで人気があり、土地も高値だったが、今は下落して別荘の持ち主も歳をとって山を下りていったそうだ。「夏は冷房いらずなんで、少しずつ手を加えて楽しんで行きます」とのことだ。99段の木の階段を上がると生石ケ峰の稜線へ。南北から車道が通じていて西側に広い駐車場があるので車でいっぱい、観光地の雰囲気なので、そそくさに立ち去って東の主峰に向かう。広い緩やかな斜面はススキの銀穂=写真上=で埋まって登り道も快適だ。「ススキの花穂が出る時期が9月4日の台風21号の後だったので、大きな影響を受けずに済みました」と「生石高原の家」のご主人は言っていた。注意して歩くと、リンドウ=写真、アキノキリンソウといった秋の草花も見つけられる。麓からゆっくり4時間、午後1時半ごろ山頂に立つ。展望は良く、四方の山々が見渡せ、北西には和歌浦の海が望める=写真。 ◇背後にそそり立つ巨岩が御神体 東へ生石神社への道を下りる。ここまではマイカー入山者の人も来ず、静かな林間歩きを楽しめる。急坂を下ると巨岩がそびえる道となり、生石神社=写真=に下り立つ。急な石段の上に社殿が建てられ、その背後に高さ16丈(48m)という巨岩が真っ直ぐに屹立している。案内板によると、西暦989年に一夜にしてこの立岩が出現、「生石大明神」として崇敬されてきたという。見上げると思わず畏怖の念を感じるような御神体だ。 ここから地蔵堂がひっそりと残る旧札立峠を通って小川宮への道をひたすら下る。木々の向こうに生石ケ峰の北面が夕日に照らされている。ただ、枝が四方に張って見事と称えられていた一本松は枯れてか姿はなかった。台風21号の強風で幹がばっさり折れた大木も見られた。 やがて道は梅本の里=写真=に下りた。柚子の実が黄金に輝き、山椒の実や野菜が育てられている山里だ。軒先で一服していた80歳を超えたおばあさんは「和歌山市など下に出た孫らが取りにやってくるので、野菜や果物を作ってます」。広い畑を歩き回っているので足腰は達者だ。昔は生石ケ峰に上がって茅(かや)を刈り、茅葺き屋根をふき替えていたそうだが、今は職人がいなくてできず、トタン屋根をかぶせているそうだ。ここからさらに里道を下り、午後5時前に小川宮に戻り、小川八幡神社に参拝して帰路についた。 危険個所などはないが、この周回コースはゆっくり歩いて8時間。ススキを見るだけなら車で頂上直下に上がればいいが、生石ケ峰の魅力はススキだけでない。登山路沿いに自然林が結構残っていて、11月からは紅葉も深まっていく。土地の歴史を感じさせる寺や社もあり、いろいろ話を聞かせてくれる元気なお年寄りが多い。日暮れの時間に気をつけながら、自分のペースで歩くにこしたことはないと感じた。 (文・写真 小泉 清) ⇒トップページへ |