すでに11月入り、今年も間もなく終わりかと気がせいてくる季節だ。近畿でも早めに紅葉を見たいと、湖北の山岳仏教の中心地だった己高山(こだかみやま、923m)に登った。
山岳仏教の拠点はるか、ブナ林に黄金の輝き
JR北陸線木ノ本駅からバスで古橋下車。高時川源流沿いの林道が途切れたところで、尾根道に取り付く。近江で最古という六地蔵の石仏を拝み、「牛止め」と書かれた六合目の案内板を通り過ぎると、道は狭く急になっていく。ここまで牛を使って荷揚げをしていたとなると、山上に相当の規模の寺があったのだろう。
ほとんどは自然林で、登るに連れて落葉広葉樹の紅葉、黄葉の色合いが増していく。ひとつひとつの木というより、全体としての紅葉を楽しむ感じだが、樹種としてはコナラ、マンサク、タカノツメと樹種は豊富。標高800mに近づくとブナが目立ち、黄金色からダイダイ色へうつっていく葉が、秋のやわらかな陽射しを受けて輝いている。
◇元気いっぱい 地元小学生の手づくり看板
歩き始めて3時間で、石塔や庭園の池跡などが残る平地に着く。寺伝では奈良時代に行基が開基、白山を開いた泰澄も入り、最澄が再興した大寺・鶏足寺だったそうだ。江戸、明治と勢いが衰え、昭和8年の火災で焼け落ちたという。ここから紅葉で染まる急坂=写真右=をあと一登りして山頂に立つ。灌木越し、東に金糞岳など近江から奥美濃にかけての峰々が望めた。
登路ぞいで目に留まったのは、地元の高時小学校の手づくり看板。鶏足寺跡に掲げられていた「てっぺんのけしきを見たらえがおになるよ」という木の看板には、元気づけられた。毎年学校行事として登っているのだろうが、そこそこの粘りもいるし、自然、歴史に恵まれ、最適な「学校の山」だ。
◇最澄お手植え伝承、樹齢1000年の逆杉
下りは尾根を南へ。カエデの紅葉が映え、おなじみのイロハモミジ、大型のハウチワカエデ、ウリハダカエデなど種類も豊富だ。尾根は西に振れるが、琵琶湖を見下ろし、己高山山頂=写真左=を振り返りながら下る道は快適だ。
尾根を外れて南へ急坂を下ると、「高尾の逆杉(さかすぎ)」と呼ばれる杉の大木=写真右=が現われた。最澄が鶏足寺と高尾寺を参拝した帰り、杉の枝を地面に立てると成長したといわれ、樹齢1000年とか。滋賀県の指定自然記念物の看板によると、幹回り7.8m、樹高35m。これは今回最大のびっくりだった。
◇里人が守り伝える仏像
ほどなく林道に着いて午後3時過ぎに古橋に戻った。里に下った鶏足寺の紅葉は色づき始めたばかり=写真下。山上の各寺から里の寺に移されていた仏像や曼荼羅は、里の寺も50年ほど前に無住となったため、地区の人々が「己高閣(ここうかく)」「世代閣(よしろかく)」で保管・公開している。午後4時までなので駆け込みで拝観した。
十一面観音菩薩像など国重文指定を含む貴重な仏像が並び、間近で見られる。案内テープは流れるが、3人ずつ交代でつめている世話役さんが丁寧に説明してくれる。2004年に訪ねた時は「年中無休でお迎えしてます」と聞いて驚いたが、さすがに今は月曜休み(11月は無休)、1,2月は休館にしている。
「現在60歳以上の21人が、週一回出るという形で行っています。今後人が減ってもずっと続けられるようにと、3年前から休みを入れました」という。休みが入っても、「仏像をガラスケースに入れて、案内も全部自動化する方法もあるでしょうが、『じかに仏さまを拝めて、話を聞けるからいい』という声が多いので、案内を続けていきます」とのこと。その気持ちは本当にありがたい。
(文・写真 小泉 清)
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