紅葉・落葉の姫神山  盛岡市         

・交通 盛岡駅からいわて銀河鉄道で好摩駅下車。一本杉登山口へは駅前からタクシーで2300円程度
・時期  10月上、中旬
・電話  盛岡市玉山総合事務所(019・651・4111)
    =2017年10月13日取材
鋭い巨岩が並ぶ修験の山・姫神山山頂
 
   
 2016年8月に啄木の故郷・渋民村(現・盛岡市玉山区渋民)を訪ねた時、小高い場所から西側を見た時に、三角の山頂を持つ秀麗な山に魅かれた。これが姫神山(ひめかみさん、1124m)。名前の響きも美しい。これは、来年には登らなければと記憶に留めていた。

  姿も名も麗し、みんなが登るふるさとの山

  そして、盛岡を訪ねる機会があった翌年の10月13日朝、いわて銀河鉄道で好摩(こうま)駅に下りた。啄木が文学を志して上京したり、古里を追われるように北海道に渡った時に乗った駅だ。この駅前からタクシーで一本杉登山口へ。ここで身支度を整えて9時に登山道を歩き出す。

 実はこの日は午前5時ごろまで激しい雨。7時ごろには上がったので決行したのだが、それでも、雨の影響で山道が崩れたり滑ったりしないかという不安はあった。しかし、登山道はしっかりしている。平日にもかかわらず、すでに多くの人が登り始めているようだ。天気も晴れてきたので、アカマツやカラマツの林が続く道を安心して歩を進めた。 

 ◇修験の岩場もしっかりした山道

 ざんげ坂という急坂がしばらく続くが,五合目の平らな場所でひと息。落葉広葉樹林の間を進んでいく。コウチワカエデ、ダケカンバなどの紅葉・黄葉のピークは過ぎており、登山道もホオノキの大きな落葉が重なっている=写真上。八合目に達すると木々が少なくなって笹原が増え、視界が明るくなってくる。けっこう大きい岩が出てくるが、岩場=写真下=の足元もしっかりしていて、滑るようなことはない。 このあたりで、早朝から登っていた年配の登山者グループや、地元の常連登山者の方が下山してきて、あいさつを交わす。

 79歳の男性は「できるだけ毎日」15キロ西側の自宅から一本杉登山口まで車で来て登っている。実は岩手山の登山口までは10キロとより近いが、「岩手山は登山口から頂上まで4時間はかかるので、ふだん登るのは無理。姫神山は山頂まで2時間、四季を通じて登れるので、こちらを登ってます」とのこと。65歳で退職した時は79キロの体重が「ほぼ毎日登山」で今は59キロ、高血圧もおさまり「私は姫神山に助けてもらったようなものです」と軽い足取りで下って行った。

 しばらく岩の間の急坂を登っていくと、意外とひょいと山頂に飛び出した。時刻は10時50分。2時間弱のほどよい登高だった。山頂はとがった三角の岩が並んでいて、その間に石の祠が建てられていて、さすが修験の山という雰囲気だ。

◇正面にくっきり、岩手山の頂

 好天なら西に岩手山を望み、南東に早池峰山を遠望できるはずだが、登った時は岩手山もガスに包まれて姿を隠していた。このままでは下りられないと、1時間近くゆっくり昼ご飯をとっていると、ガスが晴れて山頂が姿を現した。この三つの山に関しては、岩手山の妻だった姫神山をめぐって岩手山と早池峰山が争ったとか、いう伝説を聞いたことがある。話はともかく、昨年7月に早池峰山、今年7月に岩手山、そして10月に姫神山の山頂に立てたのは良かった。「地元の人は同じ年に岩手山と姫神山を登らない」という話もあるそうだが、それは気にしていられない。

 山頂には結構多くの人が集まってくる。四つの登山ルートがあって、ほとんどの登山者は、この「一本杉コース」を選ぶが、「きょうは趣向を変えて」と遠回りして「田代コース」を登ってきたベテランの登山者もいる。岩手山とはまた違った感じで、岩手県の人々にとって何度も登りたい、かけがえのない山のようだ。 

 ◇落ち葉を踏みしめ下る「こわ坂」

 下りは別の道をとりたい。南西に下る城内コースは修験登山の時から登られてきた道で、その旧跡も多いことから魅力的だが、下山口からの帰り方を確認してないので不安が残る。往路より東に振れた下山路をとって同じ一本杉登山口に戻る「こわ坂コース」=写真右=をとった。

 「一本杉コース」と違って通る人が少ない静かな道。岩場が少なく、わりと緩やかなので落ち葉の上をのんびり歩けるのは快適だ。ただ、ところどころ雨で濡れた黒土の急な斜面は滑りやすいので要注意だ。1時間ほどで林道に下り、それから30分ほどで一本杉に戻る。まだ時刻は1時半なので、山麓の集落の前田まで歩いて、そこでタクシーを呼んだ。

 盛岡市街に戻る前に渋民村からの姫神山を見たいと、渋民駅で自転車を借りて小高い丘の方へ行った。稲刈りが進む黄金の稲田の向こうにほんのり赤い姫神山=写真左=が長いスロープを描いている。去年の夏に見た青い姫神山とはまた別の姫神山だ。

 一方、渋民駅と啄木記念館の間の道からは、どっしりしりした岩手山が夕陽に映える。「ふるさとの山に向かって言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな」。啄木にとって、どちらがふるさとの山だったのか、一つに決める必要はないだろう。
  
  (文・写真 小泉 清) 
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