大和と河内の国境を区切る二上山(にじょうさん)は古代から人々が特別の思いを寄せてきた双子の山だ。新年が明けた6日、大和側の當麻(たいま)の里にたたずむ石光寺(せっこうじ)に寄って雄岳に登り、雌岳から河内飛鳥に下りるルートをたどった。
◇霜おりる朝に凛としたたたずまい
近鉄当麻駅からまっすぐ西に参道を進んで當麻寺に入り、本堂前から北門を出て田園の中を進む。温暖化が進むといえ、大阪と比べて盆地の冷え込みは強い。二上山の雄岳を間近に望む染野(しめの)の集落に入ると、石光寺が見えてきた。堂塔が並び多くの院に分かれる當麻寺と比べるとずっと小さな寺だが、石段を上がって山門をくぐると、多彩な花の世界が広がっていた。
まず冬の境内を彩るのは寒ボタン。風雪や霜よけのためにかけた「藁苞(わらづと)」の下で赤、薄紅の花が咲いていた=写真左。今朝の冷え込みでまわりの草には霜が光っており、その中で咲く花は凛としたたたずまいを感じさせる。
この日は伺えなかったが、10年前に訪ねた時、住職の染井義孝さんに「突然変異種が自然の状態で年二回咲くのが寒ボタン」と、温室などを使って人工的に咲かせた冬ボタンとの違いを説明してもらったことを思い起こした。石光寺では江戸時代には根を薬とするためにボタンを栽培していた。染井さんの祖父が茶花として再び植え始め、父の孝煕さんがボタンの研究や普及にも取り組み、染井さんはその教えを受けて育ててきた。
現在はシャクヤクを台木にして接木(つぎき)で殖やす方法が一般的だが、石光寺では本来の形質を受け継がせるためボタンを台木にする方法を続ける。根が水を吸い上げる力が違うのか、『花くずれ』も正午ごろまでなく、午前中はピンとした姿を保っているとのことだった。
寒咲きアヤメは、初夏のアヤメに比べやや小ぶりだが、冬の冷気を通して見ると、青紫の花の色も、葉の緑も一層深く、つややかに見える。二上山をバックに黄金色のロウバイの花も輝いている。
句作ノートを手にしてに庭を回っている女性に「ほらあちらに紅梅、こちらに早咲き桜が咲きはじめてますよ」と教えてもらった。俳句の題材を求めて御所から各地を歩き回っているというそうで、自然の観察眼が研ぎ澄まされているようだ。
◇中将姫伝説の井戸や弥勒菩薩石像も
継母に捨てられた藤原豊成の娘中将姫が7歳の時に當麻寺で出家、蓮の糸で當麻曼荼羅を織りあげて成仏したという伝説はよく知られているが、浄土宗の石光寺には、その蓮糸を五色に染めたという井戸や糸をかけたというしだれ桜の株が残されている。
26年前に再建された弥勒堂では、当時の調査で発掘された弥勒如来石仏=写真=や軒瓦などが展示されている。石光寺には、7世紀後半の天智天皇の白鳳時代、光を放つ石に弥勒菩薩を刻んで堂を建てたとの言い伝えがあった。石仏が白鳳時代に二上山の凝灰岩で造られたことが明らかになり、この伝説は裏付けられた。頭と胴体が分れているが、素朴な表情に親しみを感じる。
◇眺望広がる雌岳、大和三山もくっきり
石光寺を出て、傘堂と當麻山口神社の前を通る。神社では少年野球チームの小学生が社殿で参拝するとともに石段を走って上り下りして足腰を鍛えていた。
祐泉寺に達すると里道から山道にと変わる。二手に分かれた道のうち右手を選ぶ。岩屋峠を経て雌岳に向かう道より急だが、登るにつれて自然林が続いていくので気持ち良い。息切れする前に雄岳と雌岳の鞍部に着く。ちょっと一息ついて北側の雄岳(517m)山頂へ。大和側は樹林が茂って眺望がきかないが、河内側は展望が開ける。「うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山を弟(いろせ)とわが見む」の万葉歌で知られる悲劇の王子・大津皇子の墓に参拝した。
鞍部に戻って今度は雌岳(474m)山頂に立つ。アセビの花が少しずつ小さなつぼみをふくらませている。こちらは西に大和盆地=写真、東に河内平野を一望でき、大和三山もくっきり浮かび上がる。やはり冬の方が見通しは効くようだ。
◇河内の里に下ると竹内街道歩き
南へ下ると岩屋峠で、すごそばの岩屋に西暦700年頃に描かれた線刻仏3体が見られる。さらに岩場混じりの道を下ると、龍谷寺で凝灰岩の岩尾根を削り取って築いた十三重石塔が残っている。
そこから大日池に下って日本最古の官道といわれる竹内街道に出合うが、ここは国道166号と重なっていて車の通行量が多く、とても歩ける雰囲気ではないところ。再び登り返して、ろくわたりの道をたどる。雑木林が続き、河内飛鳥の景観を見下ろしながら歩く気持ち良い。急な階段を慎重に下って、シカよけの扉をあけるとミカン園の里に着いた。
この後は竹内街道歴史資料館前を通り、喧噪の国道を離れた街道歩きが味わえる。聖徳太子御廟のある叡福寺も近いが、lここは次の課題。白壁、虫籠窓の大和棟をはじめ落ち着いた民家が連なる竹内街道=写真=から二上山を振り返りながら、上ノ太子駅に向かった。
=2017年1月7日取材 (文・写真 小泉 清)
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