オニバスやヒシ…水草広がる東播磨の溜池                                    
 広い播州平野に溜池が散在する兵庫県明石市。夏も終盤の8月23日、オニバスの自生地としてよく知られた兵庫県明石市江井島の新池周辺での「オニバス観察会」に参加した。今夏の新池のオニバスは浮葉が数葉ある程度だったが、ヒシやハスなどの水草が広がっている=写真左。水草や水生昆虫の専門家、溜池を利用してきた農家の人から説明してもらい、地域と歩んできた溜池を体感できた。
 
 溜池の水利組合や地元住民らでつくる「西島ためいけ協議会」に兵庫・水辺ネットワーク、明石市らが協力して開催して今年で18回目。新池西隣の江井島コミュニティセンターでまず、水辺ネットワークの碓井信久さん、松本修二さんらがオニバスの発生状況や、溜池の環境と保全のあり方について講演。続いて新池のほとりに行き、碓井さんらが大きな浮葉を広げて説明した=写真下。
 
 ◇群落の発生あせらず50年眠る自家受粉の種

 実を裂くと8〜13室に分かれ、直径1cmほどの実が出てきた。「この種は40〜50年は休眠状態で保存されます。種の保存からいえば、毎年毎年同じ池でオニバスの群落が発生する必要はないといえます」と碓井さん。「ほとんどの種は、水中で自家受粉する水中花でできるので、土地土地のオニバスはその特徴がそのまま引き継がれ、明石のオニバスと富山県氷見市のオニバスでは花の色や種子の形などが違うんです」と地域地域での保全の重要性を強調した。

 近所の70代の男性の話では、終戦後にお菓子などが少ない時期には、オニバスの葉を池のほとりから熊手で引き寄せ、その種を採って砕き、煎って食べていたという。水草でもヒシノの実はゆがいて食べたことがあり、ほんのり甘みがあって美味しかったが、オニバスの実のことは初めて聞いた。

 固定した望遠鏡で、向こう岸の岸辺に立つアオサギを見せてもらった。微動もしないので青みがかった背中のアオサギは風景に溶け込み、遠目ではわかりにくい。首を折り曲げた姿勢でじっと待ち、魚が近づくと首を伸ばしてさっとくちばしで魚をはさみとるそうだ。オオサギ、コサギなどの白鷺も訪れるが、江井ヶ島ではこのアオサギが一番大きいそうだ。

  ◇地域ぐるみで保全・活用、外来生物など課題も

 コミュニティセンターに戻って、他の水草や動物について、各専門家から説明してもらった。ヒシとオニビシ=写真左手前=、ガマとコガマとヒメガマの違いも教えてもらう。全般にカナダモなど外来種が成長力が強くてはびこり、在来種のタヌキモは絶滅危惧種に指定されるまでに減ったという。動物でも輸入ペットのミシシッピーアカミミガメが広がって在来種のクサガメは激減している。

 大阪市に接した豊中市に住む私としては、明石では比較的よく溜池が保存されているものと感心する。明石の場合、近年の景気低迷もあって住宅需要が高まらず、開発圧力がそうないため、溜池の宅地や公共施設の転用が比較的少なかったこともあろうが、市民の溜池に対する愛着もあるのだろう。安全対策を図りながら溜池が地域の景観、環境面の重要なスポットとして位置付けられてていることは注目される。

 10年前に来た時「以前に溜池を売った際の売却金を組合員に分配してはという話が出たが、残った池をきちんと守っていこうと積み立てて管理費に充ててきました」と水利組合長さんから聞いた。この江井ヶ島では「西島ためいけ協議会」が水を利用する農家だけでなく住民全般の協力を取り込み、この観察会を夏休み終盤の行事として定着させてきた。12月には今ハスの花が見られる皿池でレンコン堀大会を開くなど、ため池を市民に親しむ工夫を進めている。

 それでも、碓井さんは東播磨のオニバスの将来に油断が許されないと強調する。他地域と比べよく残っているとはいえ、溜池の数は確実に減ってきている。管理する人の減少や高齢化で池の周りの手入れがおろそかになり、本来の溜池の植生が脅かされていく傾向も出ている。「オニバスが珍しい存在として、地元が自生地の手厚い保全策が進められてきた富山県氷見市などと比べ、明石では『どこの溜池でも見られる』ということで、効果的な保護策が進まなかった面もあります」指摘する。

 地域ぐるみで溜池を守る取り組みはさらに発展させる意義があるが、オニバスの浮葉や花を毎年見られる池の整備など、観光資源もにらんだ新しい試みも検討してもらえればと感じた。

  ◇オニバス群落発生も開放花見られず

 兵庫・水辺ねっとワークでは明石市内の18の溜池でオニバスの発生状況を経年調査しており、2015年に群落として発生しているのは、二見町福里の稗沢池(JR土山駅北東)=写真上=と大久保町谷八木の真池(山陽電鉄中八木駅北東)。27日朝に改めて見に行った。どちらも大型の浮葉が池面に広がっていたが、葉の上に咲く開放花は見られなかった。

 水中で閉鎖花が咲いていれば種の維持に問題ないのだが、稗沢池は2005年に訪ねた際は、葉の上に紫色の開放花が見られたので、外からの訪問者の立場としては残念だった。この池は2000年からの16年間のうち5年は群落が発生しており、発生頻度が高い池だ。水面の手前からオニバスの浮葉、ヒシの葉や小さな白い花=写真=左=が観察しやすいのはありがたい。時期的に遅かったのかもしれないが、また来夏に訪れたい。

                            =2015年8月23日取材 (文・写真  小泉 清)



     浮葉の上に紫の開放花  2005.8.20取材

 *2005年8月に開放花を観察、古老の方から溜池の思い出話を聞いていることから、当時の記事と写真を併せて再掲いたします。

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