剣山のキレンゲショウマ  徳島県三好市      


・花期
7月下旬〜8月中旬。最盛期は8月上旬

・交通 
今回、大阪から見ノ越へは、四国交通・阪急バスの高速バスで美馬インター下車、予約のタクシーで見ノ越まで1時間10分、11000円弱。
帰途は奥祖谷かずら橋からコミュニティバスと四国交通バスを乗り継ぎ阿波池田まで、ここから高速バスで帰阪
電話  三好市東祖谷総合支所(0883・88・2212)
剣山頂上ヒュッテ(0883・68・2028)
   ← =2015年7月29日取材

剣山の行場の岩肌沿いに開花したキレンゲショウマ
 
 
  連続した台風がようやく去った7月末、四国第二の高山・剣山(1955m)からその弟分・次郎笈(じろうぎゅう、1930m)を超える尾根道をたどった。平家の落人伝説を秘めた峰々では、お目当ての「天涯の花」キレンゲショウマだけでなく、シコクフウロ、ナンゴククガイソウ、タカネオトギリなど四国の高山ならではの花々が開花していた。

   ほの暗い修験の岩場 灯のように

 剣山の表口となっている見ノ越から頂上へ向かう。途中からいくつかの道が分かれるが、平家とともにこの地に逃れた安徳天皇が刀を掛けたと伝えられる「刀掛けの松」から東へ向かうと、鎖場などが続く行場となっている。

 ほの暗い道を進むと湿った岩肌に、黄色い花が薄闇の中の灯のように広がっている。ラッパのように開ききった花はまだ少しだが、白い球状のつぼみが黄色い紡錘状に次々と膨らんできていて、満開も間近な模様だ。手のような深い切れ込みのある10〜20cmの大型の葉を持つ特徴ある植物。ここ剣山や石鎚山系をはじめ四国の高山に生息が限られるキレンゲショウマだ。10年前に訪ねた時、シカが食い荒らして激減していると聞き、この花が見られるかどうか心配していた。張り巡らしたシカよけネットがいくらか功を奏しているのか、群生地が保たれているようだ。

 鎖場にトライしてみたが、滑りやすい急傾斜の岩場にとりつけられた鎖はなかなか手ごわい。三分の二くらい登ったところで下りた。一方で、鎖場から奥への道が崩壊、通行止めとなっており、復旧に年月がかかりそうだ。このため、当初予定していた行場めぐりから東側の一ノ森に登るプランは断念。刀掛けの松に戻り、東側の大剣神社を経て山頂に立った。

 
◇花の芽食い荒らすシカ対策に防護ネット延長

 山頂周辺は平家が再興をめざし馬を走らせたといういわれから「平家馬場」と呼ばれ、ミヤマクマザサの平原が広がる。植生を守るため幅2m近い橋のような木道が張り巡らせられている。ちょっと無粋なようだが、「ロープを張っても踏み越えていく人が絶えず、人が踏んだ跡が谷になっていました」そうだからやむをえない。

 すぐ下の「剣山頂上ヒュッテ」に入ると、宿を営みながら剣山の自然保護に取り組んできた新居綱男(にい・つなお)さん(77)が歓迎してくれた。今一番問題なのは先述のシカの食害対策だそうで、ヒュッテにも作業員数人が長期宿泊し、防護ネットの延長工事に当たっている。行場と一ノ森を結ぶ道の崩壊については「四国・中国地方が通り道となった先の台風11号のせいですが、こんなことは初めて。重機を入れないとどうしようもない規模なので、復旧には相当かかるでしょう」と話していた。

 ヒュッテは父の新居熊太さんが開設して今年で60年、一部増築され木の香りがまだ新しい。50年前に熊太さんの下で山小屋の仕事に入った新居さん。「自分にとって1世紀になるようあと50年はやります」とますます元気だ。

 
◇堂々の次郎笈、ミヤマクマザサの斜面に花々

 翌朝「山頂ヒュッテ」を発ち、剣山山頂から南西へ三嶺(みうね)に続く尾根道をたどった。次郎笈が前にどっかと腰をすえ、北側の祖谷谷を取り巻く峰々が連なっている。次郎笈という名前からも剣山の弟分のような印象を受けるが、どうしてどうして堂々とした山だ。いったん鞍部に下るので次郎笈峠から山頂への登りもひと踏ん張りいるが、山頂に立つと剣山山系の峰々が見渡せた。

 山頂からは登路を少し戻って分岐点を西へ下る。青々としたミヤマクマザサの広い斜面にはシコクフウロ、タカネオトギリ、イブキトラノオなどの花が展開して心地よい。縦走路に戻ると、ウラジロモミの樹林が続き、ヤマジノホトトギスの花にところどころで出逢う。

 丸石避難小屋を過ぎて、北側の奥祖谷かずら橋に下りる道をとる。ブナ林の中のつづら折りの道を下りていくと、丸石から流れ落ちる渓谷に出会う。国体橋を渡り、清冽な谷沿いの道をたどる。心配していた台風による崩落はここではなく、気持ちにもゆとりが出てくる。短いながら四国の屋根ならではの夏を楽しんでかずら橋に下り立った。

          (文・写真 小泉 清)