奈良県の最奥部、三重県との境に立つ三峰山(1235m)。立春は過ぎても強い寒気団が居座る2月下旬の朝、尾根は雪に包まれ、ブナやシロヤシオ(ゴヨウツツジ)の木々は樹氷の「華」が満開だった。
みなかみの樹林に輝く恵みの氷雪
登山口の「みつえ青少年旅行村」から神末川沿いの雪道を山に向かって歩き出した。程なく道が分かれるが、登りは谷を離れ尾根道の「登り尾コース」をとる。杉の植林の中をひたすら上がり、途中林道を横切ると、前方に白一色に染まった稜線が姿をのぞかせてきた。道は急坂になり杉の木の間の左後方(北側)に倶留尊(くろそ)山、大洞(おおぼら)山の山並みが見えてくる。
尾根道が狭まる「ノミの背」あたりから雪が深くなる。ミズナラ、コナラ、リョウブなどの広葉樹も現れ、葉の落ちた枝に霧氷が咲き乱れている。最低気温は頂上近くでは氷点下5度くらいとなり、吹き上げる強風で大気中の水分が枝に結実して霧氷となったのだろう。天気は快晴。木々の葉から漏れる陽光に霧氷がきらめいている。
登山口から1時間半、ちょっとくたびれたころ標高1100mの地点に山小屋が見え、谷沿いの道が合流してきた。小屋のそばには幹回り3.2m、高さ10mというブナの木が立っている。四方に伸びた枝に広がる霧氷が、厳しい風雪の中を200年以上は生きてきた風格を感じさせる。
◇室生火山群から御嶽山まで一望
戦後、この標高まで杉の植林が進められて自然林が伐採され、ブナの木が少ないのは残念だが、そこから頂上までの尾根は広葉樹林が広がっている。特に新道峠への分岐点からは、シロヤシオ、ドウダンツツジをはじめ低木のツツジが霧氷のアーチを作っていた。5月の短い時期に真っ白の花が開くシロヤシオの枝に白銀の氷雪の華をつけている。木々が少しすいたところに「御嶽山ビューポイント」と書かれた立札があり、北東の方向を望むとかすかながら木曽御嶽山と思われる山影が見えた。
ツツジの林を抜けるとぱっと頂上に出る。登山口から2時間半、ちょうど正午だ。北側を望むと左側から鎧岳、古光岳、倶留尊山、大洞山、尼子岳。大和から伊賀にかけての室生火山群の名山が勢ぞろいしている。「初めての三峰登山で樹氷も眺望も一度に楽しめるなんてラッキー」と女性グループが歓声をあげていた。
頂上から少し南へ下りて三重県側に入ると八丁平と呼ばれる高原が広がっている。ススキやササがおおっているはずだが、今は一面雪に包まれている。冷え込みと強風で氷化している個所もあり、軽アイゼンでは効かないので滑って転倒しないように慎重に歩く。頂上では木に遮られた南側の展望が開け、大台山系の稜線までが見渡せた。八丁平の中心に高さ4mを超すアセビの大木が立っていた。常緑樹のこの木もすっぽり雪をかぶっている。
◇淀川最源流、清冽な水でつくる野菜や酒に人気
白一色の世界に引き込まれ、ずっと留まりたい気にもなるが、ツツジの間に頂がのぞく高見山(1249m)を見ながら下山路をとる。山小屋から今度は不動谷ルートを選び、杉の植林帯の間を慎重に下っていく。こちらのルートは登り尾ルートと比べて使う人が少ないので、静かな雪山を味わえる。八丁平から40分あまりで神末川源流の水を集めた不動滝の横に出た。午後1時半を回り、さすがに氷瀑は見られなかったが、雪におおわれた岩や木の間を落ちる落差21mの滝は迫力がある。向かって右壁に小さな祠があり、手前の谷道には鳥居が建てられている。恵みをもたらす水源だけに、麓の人々に「水の神」として崇められているのだろう。
午後の陽射しで雪が解けてきた林道をのんびり歩き、青少年旅行村に戻った。御杖村観光協会では、霧氷バスが運行する期間の間の土祝日を「三峰山霧氷まつり」としており、この日も「もちつき大会」でつきたてのきな粉餅をふるまてもらった。「三峰山から流れ出る水をもとに作った野菜、地酒、こんにゃく自信をもってお勧めできます」と特産品のコーナーが設けられている。私も生産農家のおかみさんが「甘味があって豚しゃぶに合いますよ」のことばに引かれて、ちじみほうれんそうやこんにゃくを買った。こんにゃくは、クヌギの木灰を凝固剤に使った昔ながらの製法で作っている。
「畝(うね)が三つ並んでいるように見えるので、地元では三畝山(みうねさん)と呼んでいました」という三峰山。40年くらい前まで行われていた炭焼きは途絶え、林業も衰退してきたが、霧氷の魅力で多くの人を招き入れ、魅力ある産物をもたらしてきた。神末川はさらに名張川に注ぎ、木津川となって淀川に合流している。霧氷をつくる雪も合わせて水を蓄え、淀川水系の源流のひとつをつくり出す三峰山は下流に住む者にとっても恵みの山である。
(文・写真 小泉 清)
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