石鎚山の高山植物 愛媛県西条市、久万高原町 | ||||||||||
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石鎚山は、標高1982m。四国はもちろん近畿以西の最高峰である。真夏の7月末、表参道の成就社から最高峰の天狗岳を踏み、裏参道の面河(おもご)道を下った。山頂を取り巻く岩場や草原にはナンゴククガイソウ、シコクフウロなど高山植物をはじめさまざまな花が咲き競っていた。 西日本最高峰の表から裏へ華やぎ広がる修験登山の拠点・石鎚神社成就社で拝礼を済ませた後、神門をくぐって山域へ踏み出す。ここですでに標高1300m。ブナ、ミズナラ、ミズメなどの落葉樹が続く。林床にはヤマアジサイが目立つ。最初の鎖場「試し鎖」を巻き道で通過すると標高1650mの夜明(よあかし)峠。ヤマアザミに続いて黄色の小花のタカネオトギリソウ、白いミヤマシシウドが見えてくる。アサギマダラなどのチョウやハチが花から花へ飛び交う。◇鎖場、最高峰への岩稜歩きに快い緊張感 長さ33mと比較的短い「一の鎖」は登ることにして、軍手で鎖をつかみ岩角に足をかけてよじ登る。行者は鎖をあぶみのように足をのせて登るそうだ。慣れると、わりと効率的に高度を稼げる。土小屋ルートが合流する「二の鎖」、面河道への分岐点を過ぎ、成就社から3時間かけて正午過ぎに石鎚神社頂上社のある弥山山頂に立つ。200m南東に最高地点・天狗岳が屹立している。20m低い弥山山頂からは、いったん鎖で4、5m下り細い岩尾根をたどって登り返していく。少しためらったが、快晴のこの日に最高点に立たなければ一生立てないだろうと思い直して進む。鎖で下りてしまうと岩尾根はそう危険な個所もなく、小さな祠のある岩の上に立てた。 ◇シラベの林抜け桟道進んでお花畑 天狗岳への往復に時間がかかり午後1時を回ったので、弥山から少し戻って南へ面河渓谷への下り道を急ぐ。しばらくシコクシラベの樹林が続く。2万年前の氷期に中国・四国山地を広く覆っていたシラベが、その後の温暖化で北に退き、四国では亜高山帯だけに取り残されたとされる木で、このエリアが南限にあたる。四国山脈ならではの景観をつくりだしているが、温暖化の影響か個体数も減っており「21世紀末には見られなくなる」という指摘もある。石鎚山頂の尖峰を振り返りながらシコクザサの笹原を抜けて岩礫地を通っていく。ところどころ崩れたザレ場となっており、丸太を3本ほど束ねた桟道がところどころにかけられている。道はしっかりしているが、滑らないように慎重に進む。 このあたり、花が次々と現れ、ちょっとしたお花畑となっている。薄紫色の花穂をつけたナンゴククガイソウの群落が広がり、薄紅色のシモツケソウ、シコクフウロが続く。オタカラコウ、ホソバノヤマハハコ=クリックで写真=も。表参道ではまだつぼみが固かったタマガワホトトギスも黄色い小花をつけている。低山では秋に見かける花だ。7月末から8月初めの石鎚山はとてもにぎやかだ。このあたり、面河渓谷の源流となる流れが出ていて水場に出会えるのがありがたい。 ◇標高とともにうつる植生楽しめる面河道 標高1700mくらいまで下ると樹林帯となり、シコクダケカンバの林、ウラジロモミの林、そしてブナ林へとうつっていく。山頂から2時間ほどで、建て替えられたばかりの愛大小屋に到着。ここで一休みしてミズナラやイタヤカエデなどの落葉樹広葉樹の中の道をひたすら下る。標高1000mあたりまで下りると樹相はモミ、ツガ類とうつってくる。標高1300mから出発した表参道と比べると面河道は長く、登山口へのアプローチも遠い。その分、このルートを選ぶ人も少なく、この日出会ったのは猛烈なスピードで山頂へ往復していた若者一人だけだった。その分、表参道のにぎわいを離れて静かな山歩きを味わうことができる。そして、標高とともにうつっていく植生の多彩な姿を見られるのは楽しい。 やがて谷川の流れの音が聞こえてきて、山頂から4時間半ほどかかって裏参道の登山口に下り立つ。ここで標高800m、シキミ、ヤブツバキなど暖帯性の常緑樹も見られる。登山口には石鎚神社の鳥居が立ち、崩れた石段が残っていて裏参道として参拝者でにぎわっていた歴史をとどめる。麓の人に聞くと、特に高知県からの参拝者が多く登ったそうだ。ところどころに碧緑の深い淵をたたえた面河渓谷に沿って歩を急ぐ。石鎚山系に発するこの水は仁淀川となって土佐湾に注ぐ。 (文・写真 小泉 清) 「天下ノ絶景」面河渓で登山の疲れいやす |