高照寺のモクレン   兵庫県養父市       

   
高照寺のモクレン ハクモクレンに続いて薄紅色のモクレンが開花

・時期  モクレンは白、薄紅、赤、錦、紫、黄の順に4月上旬〜5月上旬
「密 祐快展」はあさご芸術の森美術館で3月24日〜5月13日。水曜休館

交通  大阪方面からは播但道和田山JCTを下りR312を経てR9を北西へ
JR山陰線八鹿駅から全但バスで高柳バス停下車、徒歩10分

・電話  高照寺(079・662・2865)
あさご芸術の森美術館(079・670・4111)
 

                =2012年4月16日取材



ハクモクレンに続いて薄紅色のモクレンが開いてきた
 
 
 但馬の山あいにたたずむ高照寺(こうしょうじ)。とりわけ積雪が深く長かった今年、境内には例年より10日遅れで開花したというハクモクレン(白木蓮)が満開を迎え、薄紅色のモクレンが開きはじめていた。

    待ちに待った但馬の春 六色のリレー

  氷ノ山から流れ出る八木川の北岸に沿った国道9号線を西に向かって走ると、右手に高照寺が見える。参道をゆっくり上がり、門前で水仙やジンチョウゲが迎えてくれる。山門をくぐれば、鐘楼前のサンシュユ=クリックで写真=、本堂前のアセビ、ミツマタと早春の花が勢ぞろいしている。八重桜の変種で山桜と枝垂桜にも見える正福寺桜が満開で、その根元では山野草のショウジョウバカマ=クリックで写真=も赤紫の花を開いている。

  境内に並んだ鉢では、紅白の絞りの花と深紅の花が同じ木につくツバキや、シャクナゲが咲いていた。「シャクナゲは裏山にあったのですが、シカが山から下りて来るようになって新芽を食べてしまうので、鉢に移して育てています」と奥様。これだけの種類の花をそろえ、維持するのはなかなかのことだろう。

  あふれる春の花の中で、やはり主役はモクレンだ。本堂前のハクモクレンが白い花をいっぱいに開き、西日を受け少し透けたように見える。色合いといいふんわり包み込むような形といい、仏の慈悲を感じさせる温かみのある花だ。これに続いて、薄紅色のモクレンが早い木では満開手前まで開いてきている。

 寺にあるモクレンは白、薄紅色に加え、赤、錦、紫、それに黄色。執事さんに、「参道沿いで錦のモクレンがつぼみをつけていましたよ」と教えてもらったので探しに行くと、白地に紫の筋がはいった錦のモクレンのつぼみが見つかった。薄紅色の花もつぼみは濃い色になっているので、正直、薄紅、赤、紫の3種の区別は難しいが、葉の様態などによって違いがあるそうだ。

 ◇「心の中で咲いている花との出会い」

 
密祐快住職(59)は参拝者への花説法で「今年は白いモクレンが咲き出したのも10日以上遅かったです。6日前(4月11日)に親しくしているモクレンの木に『一輪だけでも咲いてくれへんやろか』と頼むと、翌日咲いてくれていました」と話した。

 高照寺は行基上人が開山、当初最澄の高弟で密教を学ぶ中で空海の下に移った泰範上人が住職を務めたという真言宗の古刹。それだけに、木に咲く蓮として仏教ゆかりのモクレンの古木が何本かあった。花の寺として庭を整え始めた時に、花の名所ではそれほど見られないモクレンに着目。現在、境内や参道に育つモクレンの木は、珍しい黄色の花の園芸種をはじめ300本にのぼる。雪が深く長く、4月になって花が咲き出せば田畑の仕事が一斉に動き出す但馬では、桜に先駆けて豊かな花を開くモクレンはとりわけ開花が待たれることだろう。

 4月から5月にかけての長い期間を、色を替えて咲き継がれるモクレンは訪ねる側からもありがたい花なのだが、つい「一度に多くの色の花を見られないのか」と人間の勝手な思いを持ってしまう。そうした心を見透かしてか、密さんは「『まだ咲いてない』『もう散ってしまった』と不満の声をあげる人がいますが、見えない世界が一番だと感じてほしいものです。見えない花を探し、心の中で咲いている花と、花の寺でもう一度出会ってください」と語りかけていた。

 そうした話を聞くと、まだ固いつぼみの木々を見ても喜びが感じられる。先の錦のモクレンも開花までまだ時間がかかりそうだが、開くとどんな花になるかと思い浮かべると楽しい。「花は(人間を含む)動物世界と植物世界を結ぶ虹の掛け橋」という密さんの法話は、笑いの中に参拝者の心をとらえる。
 
  ◇大震災の地の心象、立体造形に

 密住職は現代造形作家の顔を持つ。20代の3年間、世界各地を放浪した密さんは中米グァテマラの村でインディオから教わったマヤ織を起点に染職作品の制作を始め、立体造形への制作へ進んだ。ちょうど朝来市の「あさご芸術の森美術館」で「密 祐快展 虚空を去来するもの−棺−」が開かれており、高照寺を訪れる途中に観覧した。

 今回の展示には1998年からの作品12点で、シュロ縄を共通の材質とし針金、木、石、鉄を組み合わせて制作。「棺」「胎」「至彼岸」の作品名のように生と死をテーマにしており、重い基調の中にも救いが感じられた。「人は植物になって蘇る」という作品について密さんに尋ねると、「人間はこの世に生まれた時にいいことも悪いこともするが、植物はしないので、できれば植物に生まれた方がいいのでは、というアンチテーゼです」とのことで、これも密さんならではの問いかけから生まれた造形だ。

 最新作の「傷ついた種の奇跡」は、大震災1周年を前に今年2月28日、岩手県南三陸町など被災地を訪ねた時のイメージをもとに制作したという。具体的なモデルはないそうだが、被災地の人々の明るさと強さの中から、再生への希望を表現したように思える作品だ。

 「仮設住宅で迎えていただいた区長さんの『一年たって一番してほしいことは犠牲になった一人一人に塔婆を立ててお経をあげてもらうことです』ということば。他の方もうなずき、自治体主催の宗教抜きの黙とうよりも仏教がやるべきことがやはりあると感じました」と密さん。住職としての仕事も、花を育てることも、造形も「みんなリンクしているんです」と明快に語った。
                                 (文・写真 小泉 清)

  [参考図書]  密祐快ほか「花説法」 山と渓谷社、2006