秋の大雲取越、小雲取越 和歌山県那智勝浦町、新宮市、田辺市   

・時期 季節、時期ごとの魅力があるが、気象条件に注意
・交通 紀勢本線紀伊勝浦駅から熊野御坊南海バスで那智山。本宮大社からは同バスでJR
新宮駅または龍神交通バスで紀伊田辺駅へ

・電話 
小口自然の家(0735-45-2434)
熊野御坊南海バス(0735-221-5101)
熊野本宮観光協会(0735-42-0735)
    =2022年10月28、29日取材

大雲取越の最高地点・越前峠から続く石段の下り道・胴切坂
 
 
 熊野那智大社と熊野本宮大社をむすぶ熊野古道、大雲取越・小雲取越を二日かけて歩いた。口熊野・田辺から東へ中辺路ルートで熊野本宮大社へ参った参詣者が、川を下って新宮の熊野速玉大社に参拝、さらに西へ那智熊野大社へ。そこから熊野本宮大社に戻る時に使われたのが、この大雲取越・小雲取越ルート。熊野古道の中でも厳しいとされているだけに、私にとっても長年の課題だった。

登り下り繰り返せば古道 本宮に通ず

  10月28日の朝7時半、那智・青岸渡寺裏の石段から大雲取越へ出発。妙法山への道を見送り、植樹祭の際に開かれた那智高原公園を通り、本格的な古道に入った。杉の植林帯が多いが、ところどころ紫と白のアサマリンドウの花=写真=が顔を見せ、心を和ませてくれる。登立(のぼりたあて)茶屋跡、舟見茶屋跡と石段の登り道が続く。しかし、舟見茶屋跡からは名前の通り那智勝浦の海が見下ろせて気持ちいい。ここからしばらく下り道で、谷筋では見事な苔玉が見られる。

 色川辻からしばらく地蔵峠茶屋後まで林道歩き。ここがほぼ中間地点で、出発から4時間少し正午前に到着したのでまずまずだ。しばらく休んで、石倉峠を上り下り、続いて石畳の急坂を上がって、このコースで最高地点の越前峠に着いた。ここで福岡市の旅行者が企画した「熊野古道ツァー」の一行と遭遇。北側の小口から登り一方なので、かなり疲労困憊した表情の人もいた。

◇「苔むした石段の下り」難所の胴切坂 

  我々は逆に下り一方となるが、「滑りやすい急な下りが続き、胴切坂と呼ばれる最大の難所」と書かれていたので、気を引き締めないわけにはいかない。実際、苔むした長い石段の下りが待ち受けており、滑って転んでは元も子もない。ツァーを引率していたベテランの先達さんに下りのコツを尋ねると「まっすぐでなく、曲線を描くように回って下りることです」。このとおりにすると、滑ることもなく、長く歩いてもそう疲れずに下っていけた。

 阿弥陀仏(本宮大社)、薬師仏(速玉大社)、観音仏(那智大社)の梵字を刻み、熊野の神々が集まって談笑したという円座(あろうざ)石を過ぎると、ほどなく小口の里に到着。時刻は3時半、8時間ほどの道のりだった。

  ◇廃校の校舎を古道歩きの宿に

   小口は林業の拠点となっていた集落で郵便局もあるが、林業の衰退で若者も去り、小口小学校も閉校となった。宿泊する「小口自然の家」=写真=は、この学校の校舎をそっくり活用したもの。豊富な夕食をとった食堂も学校の給食室だった。小口小を卒業したという支配人さんは「小学校の運動会はむらぐるみの一大行事として盛り上がっていました」と思い出を語っていた。

 ただ、学校は消えても、校舎は宿舎に、運動場はキャンプ場に生まれ替わり、古道歩きの人が集まる場にっているのは良かった。平日だったので、泊ったのは我々2人、同じコースの和歌山市の女性2人、そしてドイツから来て、本宮大社から那智大社に向かう映像制作関係の青年。「日本の精神を自然の中で感じたかったので、コロナの前から計画していました」と話していた。

 ◇自然林の地道、熊野川も見える

  翌朝は、「自然の家」が用意してくれた弁当を持って朝7時半に出発。古道を忠実にたどって小和瀬の渡し場跡から小雲取越に入る。桜峠までは登り坂が続くが、齊藤茂吉や長塚節らの歌碑が建てられ位置もわかりやすいので、そう苦にならずに踏ん張れる。何より昨日、高低差の大きい大雲取を越えて、最難関の胴切坂も突破しているという安心感が強い。

 桜峠からは、緩やかで自然林が多い地道=写真=になるので、快適に進める。百間ー(ひゃっけんぐら)からは熊野の山並みを見渡せた=写真。後は下り一方、熊野川を見下ろしながら午後1時半ごろ、出発6時間でゴールの請川に着いた。

  熊野本宮大社と旧社地・大斎原(おおゆのはら)を参拝して二日間の行程を締めた。大斎原の大鳥居前に広がもち米の栽培田では、黄金色の稲穂が実っていた=写真。

   ◇入国緩和すぐに、海外から熱い視線 
  
 全行程を通して、ツァー参加者を除き16人の歩行者と出逢いったが、うち11人は海外から。泊り合わせた独以外でもオーストラリア、スウェーデン、スイス、英、米、カナダとさまざまでも、みんな以前から熊野古道に関心を持って研究し、コロナによる入国制限緩和を待ってすぐ来日したというつわものたち。百間ーで出逢った英イングランドのカップルは「おいしい料理を楽しみたいので、新婚旅行先に日本を選び、その中に古道歩きを組み込みました」と話していた。人口減など厳しい状況が続く南紀だが、こうした人々が集まってくることに明るさを感じた。 (文・写真  小泉 清)

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