カナダミュージアムでたどる移民の人生 和歌山県美浜町           

・時期 カナダミュージアムは火曜休館。
「中津フデ展」は2020年12月28日まで

・交通
JR紀勢線御坊駅か紀伊内原駅から熊野御坊南海バスでアメリカ村下車すぐ
・電話  カナダミュージアム(0738・20・6231)、NPO法人「日ノ岬・アメリカ村」0738・20・9015)
    =2020年10月25日取材

カナダ移民が昭和初めに建てた洋風民家を活用したカナダミュージアム
 
 
 カナダ移民を多く送り出し、「アメリカ村」の名で知られてきた和歌山県美浜町三尾。2018年に開館したカナダミュージアムで、“三尾留学”の大学生が手掛けた「『アメリカ村の看板ばあさん』中津フデ展」=写真下=を見た。

   海越えて強く、優しく…「アメリカ村の看板婆さん」

 三尾でも移民経験のある人が少なくなり、移民が建てた民家が老朽化したり空き家になるなど「アメリカ村」としての歴史の風化が進んできた。そこで地元住民が中心となって2018年にNPO「日ノ岬・アメリカ村」を発足、寄贈を受けた洋館をミュージアムにするなど活動を進めてきた。そこに昨年飛び込んできたのが、東大経済学部を一年休学し三尾を留学先に選んだ岩永淳志さん。ゲストハウス「ダイヤモンドヘッド」に居候してNPOを手伝い、生きた三尾の歩みを学んできた。

  三尾のお年寄りに孫のように接してもらって話すうち、何度も耳にしたのが中津フデさん(1890〜1986)。「この人の一生を紹介することでカナダ移民の歴史がわかりやすく理解してもらえるのでは」と企画、館長の三尾たかえさん、NPOの安藤妃史さんらの支援で取材、編成した。

 「23歳でカナダ・スティーブストンにいる男性と結婚し、3年後に海を渡り夫と初顔合わせ。すぐに荒くれ男が集まる漁業キャンプに単身コックとして出向くなどがんばったが、34歳の時夫がサケ漁で海に転落死。家政婦や豆腐屋をして三尾に帰した息子二人に仕送りを続けた。出征を前にした次男と会うため50歳で帰国。戦後は三尾で暮らし、開けっ広げな気風で誰にも親しまれた」という激動の人生。それを13枚のパネルで構成した。

 フデさんが繰り出す英語混じりの三尾ことば=写真=が会場の雰囲気をぱっと明るくしてくれる。孫が語る祖母としてのやさしい心遣いなど、フデさんの人間像にも新たな光が当てられている。フデさんの長男貫一さんは戦後カナダに渡って暮らしたが、その娘ヤスヨさんは結婚して来日し秋田県に住んでいた。岩永さんはその孫に連絡をとり話を聞いた。「戦後すぐに三尾にいて歩き始めたころ、おばあちゃんに浜に連れて行ってもらい、貝殻を拾って遊んでいたそうです。三尾から秋田に送ってもらった小包の中に、その時の貝殻を入れた袋がありました」とミヨさんは振り返っていた。

  ◇三尾留学”の学生が企画、聴き取りの輪広げる

 今回、親族や知人から提供を受けて初めて公開された写真も貴重な新史料だ。帰国後の三尾での写真では、門徒だったフデさんが光明寺(浄土真宗本願寺派)の法要に参列した時の写真もある。カナダにいた時は僧侶の代わりに阿弥陀経をあげ、三尾でもお寺の世話役を務めていたというフデさん。そのゆるぎない信心が困難な時でも支えてきたのだろう。

 “三尾留学生”岩永淳史さんは9月の開会を見届けて復学、東京に戻った。会場から電話で話すと、「フデさんの縁者の方がどこにおられるかもわからないままのスタートでしたが、三尾留学の間に知り合った人たちからあれこれ教えてもらって話がつながり、新しい出会いが広がっていきました。1年間三尾にいたからできた展示でした」と話していた。

 ◇風格ある洋風建築、持ち帰った蓄音機で音楽も

 カナダミュージアムは昭和8年に帰国者の注文で三尾の大工が建築。小ぶりながらポーチがあり、2本の円柱が建つ風格ある洋風建築。タイル張りの玄関土間、洋室は独特の床張りで、折戸式のガラス戸が情緒深い。奥の和室が展示室になっており、帰国した時に持ち帰ったトランクなど寄贈を受けた品々が展示してある。

 スペースの関係もあり、2015年から休館中の「カナダ資料館」に比べると史料の種類や数はずっと少ない。 一方、洋間に置かれた蓄音機=写真左=は、レコードをかけて音楽を楽しめるなど、史料を身近にとらえられるのはありがたい。

 三尾館長は「年配の方が亡くなり空き家の処分や整理の際に、カナダ移民の足跡を伝える資料や写真が処分されていきます。スタッフが聞きつけたり、『何か英語で書いているものがある』という連絡を受けて、直前に回収したこともあります」と話しており、貴重な文物の収集・保存の拠点となっている。

 季節季節の花が咲く前庭・カナダガーデンには、1951〜2016年の第二代日ノ御碕灯台で使われていた大きなレンズも設置されている。今回のように、外からの若い人の力も生かした企画を随時行うなど工夫すれば、気軽にカナダ移民のことを学べる場になるだろう。   (文・写真  小泉 清)

  
「密でない 海に開いた田舎」に今着目=2020.10.25取材  

 
     
三尾・日ノ御埼 初冬の海岸 =2011.12.7取材

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