種高祭で南部もぐり体験  岩手県洋野町       

・場所 種市高校海洋開発科実習棟。JR八戸線平内駅から北東へ徒歩15分
・時期  例年は10月中旬の土・日開催の種高祭で実施
・電話  岩手県立種市高校(0194・65・2147)
    =2017年10月14日取材

南部もぐりスタイルに身を固め実習プール水底に。3年生が姿勢を整えてくれる
 
   
 8月に紹介した「南部潜りの里」岩手県洋野町種市を再訪、日本の高校で唯一、潜水士養成の過程を持つ県立種市高校の文化祭で南部もぐり体験をしてきた。
 ショップやダイビングスポットが盛んに体験ダイビングを開くスキューバと違い、装備が大がかりな南部潜りの体験ダイビングは困難かと思っていた。でも、10月中旬の「種高祭」で一般人歓迎の体験潜水を行うとのこと。14日に急ぎ駆けつけた。

  重量70キロ、生徒のサポートでそろり水底に

  実習棟2階の潜水プール前で受付を済ますと、さっそく潜水服に着替え。水が入らないので着衣のままでいいが、タオルを頭に巻き、ウールのベストを着て厚手の靴下を履く=写真左。潜水服はドライスーツよりずっと厚く重たい。さらに首まわり数カ所を金具でしっかりとめて水をシャットアウト。装着は1、2年生が2、3人がかりでやってくれるが、最後の金具の締め具合は先生の厳しいチェックが入る。
 
 重い靴を履いてロープで締め、首の前後に計30キロのおもりをぶら下げて、ハシゴをそろりそろり=写真右。途中で記念撮影をしてもらったあと、上から頭をすっぽり包むヘルメットをかぶらせてもらう。「ヘルメット右上に排気ボタンがあるので、頭を押し付けるようにして排気してください」と無線で先生の指示が流れてくる。

 水深3mまで下り、3年生のスキューバダイバーのアシストで姿勢を整える。総重量 70キロ の装備だが、なかなか安定しないので、生徒に支えてもらってそろりそろり歩く。円形窓の前で、建物外からのぞいている見学者に披露して3mプールを一回りして元の場所に。ハシゴを上がって重い装備を外してもらった。水中は10分足らずだったが、 スキューバと異次元の体験ができ満足した。

 ◇器具の扱い、チームワーク…基本かっちり

  プール横の部屋に展示してある南部潜りや海洋開発科の資料や装備を見学した後、指導していた横葉和浩先生に話をうかがった。プールは3m、5m、10mの3段階あり、ここで十分訓練を積んだ後、実習船「種市丸」に乗って海で潜る。プール訓練でもまず安全性を徹底。教諭6人が見守るとともにモニターで集中監視をしている。

   一方で、どんな状況でも自主的な判断ができるようにするのも大切。この体験潜水のサポート
=写真左=も、できるだけ生徒に任せるようにしている。1回で1、2年生の5、6人が装着、3年生の6人が潜水をアシストしている=写真右。体験潜水は学校のPRだけでなく、それ自体が生徒の力量を高める教育なのだ。

 学科の中では、南部もぐり(ヘルメット式潜水)だけでなくスキューバダイビング、マスク式潜水も学ぶ。マスク式はホースで空気を送られるので長時間潜水が可能で、ヘルメット式より機動性が高い。今は実際の作業現場では、「マスク式」を使うことが多くなってきているが、「器具の扱い方、空気のコントロール、安定姿勢のとり方、チームワークなど潜水の基本を学ぶには南部潜りが一番です」と先生は強調していた。  

   ◇全国から志願、「他の高校ではできない経験」

 学科への入学者はもちろん地元が多いが、全国に門戸を開いている。プールサイドで装着をアシストしてくれた2年生の湯山康平さん(17)は横浜市の出身。父は大工で海と直接関係ないが、海底ケーブルの敷設に従事している兄の姿を見て、自分も潜水士になって海で働きたいと種市高への進学を志願した。

 先生の家に下宿して通っており、共通の目的をめざして学んでいるので、出身地が違うといった気持ちは全く感じないという。「中学の同級生と会って話しても、『他の高校ではできないことをやってるんだ』という気になります。一般の人に南部潜りを教えることで、手順を再確認でき、勉強になります」としっかりしている。   

展示室で見たように、潜水以外にも測量や溶接など船の解体・引き揚げに必要な技術も広く学び、資格も取得できるなど教育内容も充実している。ただ、潜水士の「危険できつい」イメージが敬遠され、40人の定員割れが続いているのが悩み。人材確保が迫られる潜水業界の拠出で寮を完備することになり、海洋国・日本を支える若者が、全国からより多く集まることが期待されている。       

    ◇大阪湾の海底で働いてから先生に

  せっかくの種高祭なので、普通科の生徒の展示も見学し、実習棟前で店開きしている海洋模擬店=写真左=で焼きそば、焼き鳥を買ってお昼ごはん。海洋開発科教諭で強豪の同高レスリング部顧問の濱道秀人先生も、イカポッポをはじめ販売PR中。今年はイカの不漁で悩んだが、卒業生の協力で何とか確保できたそうだ。

 種市高OBの濱道さんは、卒業後大阪市にある日立造船の関連会社で、南部潜りの技を生かして働いた。濱道さんは「郷里に戻って後輩たちを教えたい」という気持ちが強まり、教員資格を取得した。海洋開発科の先生は、一度就職して海中での実務を経験した後、教員になる人が多いという。

 高校レスリングの全国大会が8月に大阪で開かれるので、濱道さんは部員を引率して毎年大阪を訪れているといい、大阪からの見学者を歓迎してくれた。私も、遠くに感じられた種市がぐっと近くに感じられるようになった。実際、種市高OBとは全国津々浦々の現場で出会えるそうだ。

 印象的だったのは潜水具の装着と水中歩行をサポートしてくれた生徒たちの真剣な表情。展示室で見たように潜水以外の測量や溶接など教育レベルは高い。全国応募の障害になっていた住居問題も、業界団体の支援で建設される寮で解決されそうだ。海を舞台にした活動をめざす若者にとって、有力な進路にできる学校には違いない。校門を出て南の種市漁港に係留中の種市丸=写真上=を見て、南部もぐりの里にさよならをした。
    
   
(文 小泉 清、水中と梯子を下りる写真は、種市高の3年生に撮ってもらった))  


   *2020年に聞く*

 潜水業界の人材育成につながる種市高校の学生寮は、2018年4月にオープンした。2020年7月現在、海洋開発科の1年生3人、2年生6人、3年生5人の計14人が寮生活を送る。東北、関東出身者が多いが、関西からも昨春、兵庫県尼崎市から一名が入学・入寮した。私の隣町出身の生徒が、海に潜っての仕事を目指して学んでいるとは頼もしく感じる。

 定員40人に対し、在科生は1年23人、2年29人、3年24人で定員割れの解消にはまだ至っていないが、「寮があることを知ってもらうことで、遠方からの志願者が入学することにつながり、応募者減に歯止めをかける効果は出ています。いろんな地域から集まることで、生徒の視野が広がる利点もあります」と海洋開発科長の吹切(ふっきり)重則先生。

 また、昨年度から七代目の「種市丸」が配備された。安全対策を充実させながら、最新の潜水技術に対応できる実習が北三陸の海で進められている。   (2020..7.7)



 
北三陸・種市で南部潜り学ぶ=2017.8.19
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