天神崎の初夏  和歌山県田辺市      

・交通  JR紀勢線紀伊田辺駅下車、駅前のレンタサイクル利用が便利
・電話  田辺観光協会(0739・26・9929)
天神崎の自然を大切にする会(0739・25・5353)
    =2017年6月10日取材

貝、カニなど専門ごとに子供たちに説明する「大切にする会」のメンバー。採集した生物は速やかに返
 
 
  黒潮が洗う田辺湾に面し、「日本のナショナルトラスト発祥の地」といわれる天神崎(和歌山県田辺市)の自然観察会に初めて参加した。干潮時の海辺の岩礁や背後の段丘を歩いて、初夏のさまざまな生き物について教えてもらった。 

   山も海も一体に 世代越え語り守り継ぐ

 関西広域連合の催しで、「天神崎の自然を大切にする会」の玉井済夫さんらが先生役。玉井さんはまず、43年前の1974年、天神崎の背後の日和山に 53棟の別荘地が計画された時「背後の山の自然が壊されれば海の自然も壊される 」と会が発足、全国に寄金を募って業者から予定地の半分近くを買収した取り組みを説明した。

 大阪、京都方面からも来た 参加者は家族連れが中心で、浅いプールが縦横に入り込んでいる広い岩礁を回った。子供たちの獲物を見つける目の鋭敏さと、網で捕える素早さにはかなわないので、横からのぞかせてもらう。
 

◇紫の汁出し威嚇?タツナミガイ

 泥のかたまりのように見えたタツナミガイは、指で触れると紫の汁を吐き出す=写真上。外的への威嚇のようだが、波が立ったような形の美しい貝殻が中に隠れているとは想像もつかない。近くの水中で揺れている茶そばのようなものは、タツナミガイの卵嚢=写真左=で「海そうめん」と呼ばれる。日光にかざすと、ゴマ粒のような黒点の卵が見える。

 岩場に付いた楕円形の平べったいヒザラガイ=写真下=は、取ろうとしても、岩と一体となったようではがせない。潮が満ちてくると藻類を食べに這い出すという。

 狭いプールにも小さい魚が入り込んでいる。動きがすばやくて捕まえられないが、ボラやキスの稚魚が多いらしい。大きな魚が入ってこない岩礁は、稚魚が安心して大きくなれるゆりかごのようだ。

 1時間半ほどして子供たちが獲った生物を一か所に集め、専門の先生方が名前や性質を教えてくれた。貝、カニ、ナマコ、ウニ、海藻とさまざま。貝殻のきれいなタカラガイのように沖縄方面から黒潮に乗ってくる生物もあるそうだ。
 

◇カスミサンショウウオは湿地から森へ

 昼休みの後、背後の日和山(標高35.5m)に登った。東側からウバメガシやヤマモモの樹林が続く道を上がると頂上、田辺湾が見渡せ、南側に南方熊楠ゆかりの神島が望める。西側の登り口あたりにはタブの木が多く、足元にはウラシマソウが見られる。
 麓の湿地=写真左=ではハンゲショウが葉を広げ、ハラビロトンボやシオカラトンボが飛んでいる。今は森の中に散っているカスミサンショウウオは1、2月になると産卵に湿地へ帰ってくるそうだ。

 ◇干潮の適期中心に自然観察会重ねる

  玉井さんの締めくくりの話では、天神崎の自然観察はやはり広く岩礁を回れる干潮時。季節的にも干潮が昼間になる4~6月が一番適期だそうだ。ということで、昨日は中学生向け、明日は田辺市民向けと観察会が続いているそうだ。残った土地の買い取りも「当時のようにあわてる必要はないが、時間をかけて進めていきます」としている。

 夕焼けが映える天神崎=写真上。ここを含む田辺湾は2015年に吉野熊野国立公園に組み入れられた。海辺の身近な自然を一体として守り、語り伝えて来た「大切にする会」の活動に改めて感じ入った。
                   
    (文・写真 小泉 清)