ツツジ咲く陽春の大塔山 和歌山県古座川町           

・時期 4月下旬〜5月上旬
・交通 すさみ町から県道38号すさみ古座線〜298号古座川熊野川線
・電話  古座川町役場(0735・72・0180)
    =2017年4月30日取材

大塔山山頂近くのヒカゲツツジ
 
 
  紀伊半島の奥の奥、熊野山地の盟主の大塔山(1121m)は遠い。鉄道、バスと公共交通機関での登山が基本の私も、ここはマイカーを使わないと麓にも到達できない。4月29日朝に大阪を出発、和歌山県すさみ町に寄った後一枚岩を通って古座川ををさかのぼり、古座川町奥の中心地下露に到達、このあたりで唯一の旅館「田中屋」に投宿した。

 古座川源流の滝から本州最南端のブナ林へ

  夜明け前の午前5時前、女将さんが用意してくれた大きなめはり寿司をもって出発。最も奥の集落松根を通って林道を走り、午前6時、大塔橋で車を下りる。谷に下って30分ほど進む。二股を左手にとると植魚(ウエウオ)の滝=写真。二段になって青碧の滝つぼに落ちる。分岐に戻って右側に進めば、漆黒の岩肌を静かに落ちるハリオの滝だ。このほかにも三筋に分かれて落ちる滝もある。いずれもびっくりするほど高かったり、水量が大きい滝ではないのだが、古座川源流近くで神秘的な趣のある滝だ。

 分岐点に戻り道標に沿って尾根道を上がる。結構急で道が途切れて木をつかんでよじ登るようなところもある。案内ルートでは、どこかで再び谷に下りる小道があるはずなのだが、登りに追われて見失ってしまう。難所を過ぎるとわりとはっきりした尾根道が続き赤テープもあったので、そのまま進む。シャクナゲの花が少し開花、日陰にはギンリョウソウも見られる。10時過ぎ、幸い山頂に通じる南主稜線=写真=に出たので一安心。山頂手前かあらブナ林が現れ、ヒカゲツツジ、アセビ、タムシバ、クロモジといった春の花木が咲きそろっていて、登りも楽しくなってくる。

 ◇色とりどりの花木、アケボノツツジは残念

 歩き始めて5時間少し。11時20分に山頂に立った。西側に法師山が見え、奥深い紀伊山地の山並みが重なって見える。この山ならではのアケボノツツジの花を探したが、ツボミでさえ見当たらない。いつもなら4月末には咲いているはずだが、今年は紀伊半島でも寒さが続いたので、アケボノツツジの花期も遅れたのだろうか。自然のリズムは、どうしようもない。

 山頂周辺にはブナ林が広がっているが、まわりにフェンスが張りめぐらされている。大塔山は本州最南端のブナ林群落地域で、1921年に「大塔山モミ・ツガ・ブナ植物群落保護林」に指定されている。近年、樹木を誤って伐採したために裸地になって乾燥化。新芽が鹿に食い荒らされたり、登山者が踏みつけたりで植生の回復を脅かしており、鹿や登山者の侵入を防ぐ柵を設けたという。

◇下山路、林道歩きもたっぷり堪能

 特大のめはり寿司を食べて1時間ほどのんびりした後、東南に続く尾根道を下山。ここもブナ林にヒカゲツツジ、クロモジ=写真=の花が映える。道ははっきりしていて迷うことはないので安心だ。ただ、結構登り返しもあるので楽勝とはいかない。足郷山は山頂は飛ばして巻道をとり、3時に舟見峠から林道に下りた。林道と言っても舗装されていない地道なので快適。30分ほど歩いた足郷トンネル東口横の大島桜は桜吹雪を舞わせていた=写真。

 トンネルを抜けると舗装道路。うねうね回って1時間、4時半に車を停めた大塔橋に戻った。山間なので薄暗くなった林道を車を走らせ5時間に「田中屋」に帰着。女将さんにあいさつして長い大塔山登山を終えた。

 女将さんの話では、昔は下露でも旅館が三軒あったという。しかし、道路の整備で新宮市街地からでも工事関係者も30分で通えるようになり、釣り客や登山者は車で日帰りしたり車中泊する人が増加。旅館の利用者は激減し、女将さんが亡くなると後継者もなくて廃業していったという。

 マイカー登山とはいえ、登山口に少しでも近い場所に泊まれる場所があるのはありがたい。長い時間歩くのに前日風呂に入り、夕食を食べ、布団で寝るのと車中泊では全然違う。「アケボノツツジの花を見にまた登りにくるので、その折はよろしく」とお願いして夜道を帰阪した。   (文・写真  小泉 清)

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