加太・淡嶋神社の雛流し  和歌山市         

   
                    
    
雛人形を白木の木舟に乗せ紀淡海峡の海に送り出す

  ・日程  雛流しは毎年3月3日、桜鯛祭りは3月第1土曜に
・交通案内   南海電鉄加太駅から歩いて30分
・電話  淡嶋神社(073・459・0043)、 加太観光協会(073・459・0003)           
                 =2017年3月3日取材=
        
   桃の節句の3月3日、和歌山市加太の淡嶋(あわしま)神社では、白木の舟にのせたひな人形を海へ送り出す神事の「雛流し」があり、全国から訪れた女性や地元の子供たちが見守った。。

  女性の願いと力こめて海へ送り出す

  南海和歌山市駅で加太線に乗り換えて30分ほどで加太駅に着く。和歌山市内とはいえ中心市街地の喧騒はなく、漁村の雰囲気が漂う町だ。駅から参拝客と一緒に家が建てこんだ細い道を歩いていくと、1時間足らずで淡嶋神社に着いた。

 正午から始まる神事まで時間があるので、境内の雛人形博物館に入った。中でも紀州徳川家から奉納された雌雛、雄雛一対は小道具に葵の御紋が使われていて目をひく。

 ◇桃の花と菜の花で飾った白木の舟に

 この1年間に全国から寄せられた雛人形は45000体だそうで、そのうち本殿に6000体がびっしりと並べられている。その前で地元幼稚園の園児が「ひなまつり」の歌を斉唱した。去年の今頃、妹が生まれるため時々面倒を見ていた当時2歳の孫娘が、この歌をよく歌っていたので育爺としては、短調のメロディーがちょっと淋しく聞こえる。

 桃の花と菜の花で飾られた3隻の白木の舟が置かれ、巫女さんが300ほどのお雛様を選んで舟にのせる。いっぱいになった3隻の舟は女性の参観者に担がれ、神職と巫女の先導で、石段を下りて、神社から西の仮設桟橋に向かう。海浜沿いの道を500メートルほど、けっこう重いようで時々担ぎ手が変わる。

  ◇年齢、国籍越えて女性が担ぐ 

 整理役の男性が「女性の方は舟にさわってください。おっさんはあかんよ」。ふだんの祭は女性は脇役に回されるが、雛祭ばかりは女性が主役。担ぎ手もけっこう年配の女性が多くても、みな少女のように楽しそうだ。雅やかだけではない女性力を感じさせる祭だ。

 仮設の桟橋に到着。沖合いに友ケ島に横たわっている。舟が下され、神職と巫女が並んで拝礼、神職が祝詞をあげる。舟は海に浮かばされて、先導の船に曳かれて沖に沖にと遠ざかっていく。


 環境上の問題から雛をのせた木舟はだいぶ時間がたってから回収される。大半の観客はそういう野暮なところは見ることはなく、伝統の神事の余韻に浸りながら去っていく。

 参観者の中には外国人観光客が多く、中国人、韓国人、欧米人と国籍もさまざまなようだ。昼前に淡嶋神社の駐車場の空いた場所で礼拝しているイスラム教徒らしい女性もいた。海外でこうした女性に焦点を当てた祭りがあるかどうか知らないが、外国人、特に女性にとって、この雛流し神事は忘れられない記憶になって語られることだろう。

  ◇海上の要の紀淡海峡、鯛の好漁場に

 私はさらに海岸沿いに南西へ田倉崎へ向かう。「紀の国の飽等の浜の忘れ貝 吾は忘れじ 年は経ねども」と刻まれた万葉歌碑がある。詠み人知らずだが、情感のある歌だ。歌碑の先から急な石段がつけられ、息を切らせて登ると田倉崎灯台が建つ。無人とはいえ、対岸の友ケ島灯台と共に大阪湾への入口・紀淡海峡を守る重要な灯台だ。

 眺望を楽しんだ後、淡嶋神社への道を引き返す。神社のすぐ前は漁港となっており、明石、鳴門と並んで有名な加太の鯛をはじめ、豊かな海の幸が水揚げされる。あす4日に開かれる「桜鯛祭り」は行けないので、「加太おさかな創庫」のいけすで泳いでいたメバルを引き揚げてさばいてもらった。

  ◇多くの社寺、役行者や法然上人ゆかりの地

 後は、社寺など見どころに寄りながら加太駅への帰り道をたどる。
路地沿いの興味をひかれたのは「役行者堂」の碑。117段の石段を登るとお堂があり、高台からは加太の家並み、友ケ島の姿が良く見える。海辺の街で修験道にかかわる役行者堂がなぜあるのかと思うが、「奉修葛城廿八宿回峰行」という去年の木札が掲げられている。役行者が葛城修験道二十八宿を開いた時、友ケ島に第一宿を友ケ島に置いたとされ、友ケ島の真正面にある加太の高台に行者堂が置かれたのもうなずける。

 道沿いには阿弥陀寺、光源寺、称念寺、常行寺とお寺が続くが、いずれも西山浄土宗の寺院。土佐に配流された法然上人が京へ帰る海路で遭難して加太に漂着した歴史によるらしい。常行寺では樹齢400年とされるビャクシンの巨木があった。

 海の要衝であるとともに山が海に連なる加太は、歩けば歩くほど魅力が詰まっているようだ。

          (文・写真  小泉 清)=2017.3.3取材
              

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