兜明神岳の紅葉  岩手県宮古市          

   
                
  
 
    
兜神社に下りて見上げる秋の兜明神岳

  ・花期  9月~10月
・交通案内   JR盛岡駅または宮古駅前から岩手県北バスの106急行バスで区界下車。車なら盛岡、宮古方面からR106
・電話 区界高原ウォーキングセンター(0193・77・2216)、宮古市川井総合事務所 (0193・76・2111)
                       =2016年10月16日取材=        
  街道見守る岩峰、北国の色に染まる
 三陸の港町・宮古と城下・盛岡を結ぶ宮古街道の難所だった区界(くざかい)峠。そのすぐ東に立つ兜明神岳(1005m)に10月16日に「孫連れ登山」、関西よりずっと早い岩手県の紅葉を味わった。

 標高750mの区界高原ウォーキングセンターからだと、はじめは手軽な家族ハイキングコース。現在、盛岡市に住む長男の長女=孫=は2歳10か月ながら、とっとこ上がっていく。落葉広葉樹林は大きなホオの葉、天狗の団扇のようなハウチワカエデ、いろんなどんぐりが落ちていて、そういうのを拾うのは楽しい。そういえば秋の山道を歩くのは初めての体験だ。

  ◇蛇紋岩の頂から冠雪の岩手山望む

 ちょっと傾斜が急になってくると、さすがにばあちゃんに「おんぶ」だが、50分ほど登れば頂上直下の草原に。昔はここで牛が放牧され、スキー場もあったそうだ。ここから上はきつい登りになり大岩が立ちふさがるので、お子様たちはここで遊んで待つことにして、当方と長男は急傾斜の道をたどって頂上へ。最後は切り立った岩場で、兜神社の奥社の石の祠が立つ。高度感があって、かなりびびって狭い頂上に腰かけた。

 岩手山(2008m)をはじめ周囲の山々の眺望は抜群だ。岩手山は10月8日に初冠雪、「今年は初冠雪の雪が残って頂上付近は氷雪の世界」とのことで、今季は登頂はすでに遅しだが、来夏はぜひ上場に立ちたい山だ。

 下りはさらに慎重を期した。蛇紋岩の岩場はしっかりしていて崩れることなく、ホールド、スタンスは意外とあるので実際はそう危険度はない。岩場の下からは、さらに北側に岩神山に向かう道がつづいいる。1時間ほどでいけそうだが、本日はファミリーハイクということで断念した。

   ◇多彩な落葉広葉樹の森下り神社に

 大岩からは一人別行動で、南麓の兜神社に真っすぐ下山するルートを取った。ダケカンバ、マユミ、ミズナラと多彩な落葉広葉樹が続く。ダケカンバは高山の森林限界近くまで生えている印象が強いのだが、ここのように標高800-1000mあたりに生えているのは、さすがに北国だ。神社に近づくとオオヤマザクラ、キタコブシなど北国ならではの木も見られる。こけしの材料となるミズキもある。

 この道が本来のメインルートのようで、樹木の説明板もつけてくれているのはありがたい。しかし、今はほとんどの人が、区界ウォーキングセンターからの道をたどるためか、上り下りとも誰とも出逢わない。この秋はちょっとクマのことが気になるので、リュックに着けた鈴を多めに鳴らし、歌をがなりながら下りた。

 神社で、天然芝・草原コースを下りていた3人と合流。ススキの穂がいっぱいの草原を楽しめたようだ。拝殿に参拝し、カエデが並ぶ参道=写真下中=を通り抜ける。真紅の鳥居を抜けて国道106号線に出て振り返ると、兜明神岳の全容が見えた。紅葉に染まった山の先端に、さきほど上がった岩峰が兜の形を見せている。高原だから秋晴れの空もいっそう高く青く見えて気持ちいい。夏の涼しさと景色で区界が「岩手の軽井沢」と呼ばれるのも、うなずける。

 肉牛の飼育は行われなくなったが、冷涼さを生かした高原野菜の栽培は続けられている。特に大根の評価は高く、大根を干している光景がよく見られた。 

   ◇震災復興加速めざし峠貫くトンネル

 区界では、峠を越える国道106号がカーブの続く難路のため、震災復興工事として全長5キロの新区界トンネルを掘削中だ。山登りの前に地元住民ら向けの見学会に参加、工事事務所長らから最新技術を駆使した工事の現況を説明してもらった。水を処理しながら複雑な地層の岩盤を掘り進めていく工事は容易ではないが、早期開通を至上命題に4か所の切羽を設けて工事を進めている。完成すれば、宮古をはじめ岩手県の三陸沿岸と県都・盛岡市との交通が格段に安全・快適になることは間違いない。地元の区界集落にとっても、盛岡市の中心部まで30分で行けるようになる。

 一面で新トンネルの宮古側は、ずっと東側に移動するため、区界高原を通る車はほとんどなくなり、「道の駅」も廃止・統合される見通しで、地元では「かえて置き去りにされるのではないか」という懸念の声もある。しかし、多少トンネルの出口から離れることになっても、それは区界高原の魅力を大きく損なうものではないと思う。新区界トンネル開通を好機として、首都圏をはじめ全国にも「岩手の軽井沢」をアピールして、より多くの人を呼び込んでほしいと思った。                         (文・写真  小泉 清)            

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