十二町潟水郷公園のオニバス  富山県氷見市          

   
                
  
 
    
紫の花弁の中の黄金色の花芯部が鮮やかなオニバスの花

  ・花期  8月中旬~9月中旬
・交通案内   今回はJR氷見線氷見駅の氷見観光案内所のレンタサイクルで西へ20分。徒歩なら40分。
・電話  氷見市役所(0766・74・8106)
               
                 =2016年9月7日取材=        
 家持が愛した越の水面に高貴な紫

  冬の寒ブリで知られる富山県氷見市。玄関口のJR氷見駅で自転車を借りて川に沿って内陸部に向かうと、水辺に沿った広い公園に出た。水路にかけられた橋を渡ると、目的にしていたオニバスの池があり、大きな葉が水面を埋め尽くしている。その上のところどころに鮮やかな紫の花。これが、ぜひ見たかった開放花だ。

 万葉の大伴家持の時代から湿地が広がっていた名残の十二町潟は日本きってのオニバスの自生地で大正12年に国の天然記念物に指定されている。ため池や湿地の減少で、絶滅の恐れも出ているオニバスは、これまでに紹介してきた兵庫県明石市のため池群でも地元住民や保全活動が進められている。水中で閉鎖花が開き実もできていれば種の維持には問題はないのだが、やはり水上の開放花がなかなか見られないのは寂しい。

  ◇国天然記念物守り続ける地元の熱意

 十二町潟も一時ヒシが繁茂したりして指定地では自生が確認できなくなっていた。しかし、地元住民や研究家でつくる氷見市オニバス研究会の会員らが中心となってガマ刈りや浚渫を行った結果、1991年にはオニバス池への移植による発芽、開花がするようになり、一時は自然発芽も復活した。近くの市立十二町小学校では40年以上、学校の池でのオニバス栽培を続けている。こうしたオニバスへの強い思いがあるので、毎年、こちらに来れば開放花が見られる環境が整っているのだろう。

 オニバスの名の通り、大きな葉の裏にはトゲがありちょっと近寄りがたいという向きもあり、「枕草子」では「おそろしげなもの」とまで書かれている。る。名前に似合わず花はつつましやかで、中の様子はわかりにくいが、重なり合った花びらの中に黄金色の花芯部がのぞき、神秘さも感じさせる花だ。一つ一つの株に咲いている花は二つ、三つ。一つの花は2、3日で終わるという。まだ、開いていない株もあったので、9月半ばまで開花を続けるだろう。

 実は、この日の天気予報は雨。日照に敏感なオニバスの花なので、実のところ、花を見るのは無理かと思っていた。しかし、雲に包まれた不安げな天気が、池に着いたときは陽射しも少し出て夏の雰囲気。池全体では花が数えきれないくらい見られて、「見に来てよかった」。隣の高岡市から時々散歩に来るという年配の人も「これがオニバスの花なんですか。実は初めて見るんです」と喜んでいた。

  ◇日本固有種・イタセンバラも近くの川に生息

 花を十分見た後、十二町潟公園の周辺を自転車で回る。このあたりは大伴家持が越の国の国司として赴任してきた当時は「布勢の水海」と呼ばれ、家持は近くに館をつくって舟遊びを楽しんだという。周囲の開発で潟はわずかを留めるだけだが、それでも下り立っているサギを見ているとほっとした気持ちになる。「国指定天然記念物 イタセンパラ」の説明板があった。淀川のワンドに棲んでいる日本固有種の淡水魚ということで親しみ深い。公園近くを流れる氷見市の万尾川・仏性寺川、濃尾平野の木曽川水系でだけ確認されているといい、どういう地理的な関係なのか興味深い。これも十二町小学校で飼育し、富山大と氷見市が連携した淡水魚水族館「ひみラボ」で研究しているとのことなので改めて訪ねたい。一方、潟で漁をしていた「アト小屋」の遺構が放置されたような形で、説明板が破損されたままなのは惜しい。

   ◇立山の高峰から富山湾の深海まで

 潟の中に浮かぶ小島で、家持を祀る御影社のある円山は訪ねたかったが、雨が降りかけてきたので断念。氷見港に戻って一服してから海沿いのサイクリングロードを雨晴海岸へ向けて走った。左手に富山湾を見ながら快適だ。湾で初秋とはいえ波は荒い模様で、浜が削られるため消波ブロックが随所に設けられ、防砂林が続いていた。砂は白く、まさに白砂清松の美しい浜だ。

 中程の島尾でサイクリング車に乗った地元のベテランサイクリストに道を確かめると、「ついでに」と先導してくださった。平泉めざして落ち延びる途中の義経一行が雨が晴れるのを待ったと伝えられる義経岩、まわりの岩礁を子のように従えた女岩を案内してもらう。冬の好天時には海越にくっきり見える立山連峰を思い描き、高低差4000mの深い湾に生きる魚の豊かさを想像した。 

  (文・写真  小泉 清)

           ⇒オニバスやヒシ…水草広がる東播磨の溜池 2015.8.23取材
              

                        →トップページへ