充実の縦走と街道歩き 祝!名松線の来春全線再開                                    
  大和と伊賀・伊勢の国境を区切る尼ケ岳と大洞山を結ぶ縦走コースを、7年ぶりに再びたどった。10月下旬と季節が遅めになったので、ツリフネソウ、アケボノソウというった初秋の花は見られなかったが、見晴らしのいい尾根道では樹種によって進む紅葉と、終盤のススキの競演を楽しむことができた。

   ◇進む秋色、ススキと紅葉の競演

 大洞山雌岳から下った真福院では、前回、ルートの歴史的背景について伺った松本俊彰住職とお目にかかれた。日本では数少なくなった山桜の名所をネット検索で訪れる外国人の留学生らとも話し、92歳で益々お元気だ。桜紅葉が色づき始め、茶畑に白い茶の花が開いている「三多気(みたけ)の桜」の道から伊勢街道をたどり、名松線の終点・ 伊勢奥津駅には夕闇の迫る中、5時前に到着した。

 JR東海の名松線は三重県の松阪・伊勢奥津間の43・5キロを結ぶ路線で1929年に開業、名張まで結ぶ計画だったが、伊勢奥津までで止まった。利用客は減少しJR東海きっての赤字路線だが、鉄道ファンにはよく知られた路線だ。2009年10月の台風被害のため家城−伊勢奥津が不通のままになっており、この区間は代行バスが運行。運転手と車両は三重交通だが、JR東海の職員が添乗員として同乗している。17時20分出発の便は私一人だったが、若手の添乗員さんは立って安全に注意する一方、名松線の予定について丁寧に教えてくれた。

    ◇歴史と自然の魅力活用に地元も工夫

  名松線の線路自体の復旧はそうかからないが、「このままでは同じことが起こる」と三重県や津市が治山工事を行い相当の時間を要した。今年度いっぱいで復旧工事が完了、来春には全線開通するという。休止部分はそのまま廃線になるのではという見方もあっただけに、鉄道の好きな人間にとっては朗報だ。代行バスは33分で家城駅に到着、18時03分発の松阪行き列車に乗ると、帰宅に使う高校生でにぎわっていた。通学など地元にとっても必要な線なのだろう。ただ、このまま利用者が少ないままで赤字が累積しては、せっかくの再開に水を指すだろう。

 添乗員さんの話では、名松線全線復旧をまえに10月20日から津市が伊勢奥津駅前などを拠点とした美杉地区での電動アシスト自転車のレンタルを始めたという。伊勢奥津駅前には北畠氏庭園などもあり、いい試みだと思う。自然や文化を目いっぱい味わうには、マイカーよりも、公共交通機関と自転車・徒歩の組み合わせが一番だ。今回の尼ケ岳〜大洞山という縦走ルートはマイカー登山では不可能。尼ケ岳山麓へのバスの便が減少したとはいえ維持されていることから可能だった。

 伊勢奥津駅の駅舎の前には「祝 みんなで祝おう 名松線 来春再開通」のポスターがあった。全線再開が、地域の魅力を掘り起こすきっかけになってほしい。
                           =2015年10月23日取材 (文・写真  小泉 清)

                   →初秋の尼ケ岳〜大洞山  2008.9.20取材  

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