若い力加わり紀伊ジョウロウホトトギス祭り                                    
  和歌山県田辺市からすさみ町まで伸びたばかりの高速道を使って10月4日、同町佐本の紀伊ジョウロウホトトギ祭りを見に行った。

 キイジョウロウホトトギスで佐本を訪ねるのは2001年、12年に続き3回目だが、祭りは初めて。南海トラフ対策で内陸部を通るためトンネルが連続する新道をすさみインターで下り、佐本川をさかのぼって佐本地区へ。西野谷川沿いの細い道は送迎車に乗せてもらって第1会場の西野川に着いた。

 ◇一株から花の里に、「育ての親」の熱意偲ぶ

 まず、佐本での「キイジョウロウホトトギス育ての親」山中茂さん方を訪れた。山中さんはここ数年入院生活だったが、先月末に85歳で亡くなられたと聞き驚いた。2001年10月に訪ねた際、「花の美しさにひかれて植えた1本の苗から広がり、夏場の日照の調節に工夫したりして今では4000株になりました」と石垣に咲く花を見ながら話していた山中さん。育成への情熱はもちろん、紀勢線周参見駅まで車で迎えに来ていただき、今よりずっと細かった道を素早いハンドルさばきで駆け上がった精力的な姿が忘れられない。

 奥様は「地元のシイタケを大阪の市場に出せるようにしていました」と地域のために懸命に取り組んできた山中さんのことを振り返っていた。祭りに来ていた人も「お元気なころに訪ねて花を分けてもらった」「花が咲くのを待つように亡くなられるとは…」と惜しんでいた。

  ◇ウォーキングと合わせて楽しむグループも

 佐本に着いたのは午前10時前だったが、けっこう人でにぎわっている。仲間や家族で、各所の石垣で垂れ下がっている花=写真上=に見入ったり撮影したり、小滝のかかる源流沿いに散歩していた。西野川での栽培の中心となっている谷口文男さんら、背にキイジョウロウホトトギスをプリントした赤いハッピを来た生産組合員が歓迎、苗の育て方などで話の花を咲かせた=写真左。明るい陽射しのもとで思い思いに「キイジョウロウホトトギスの里」を楽しんでいた。

 グループ連れのハイキング姿の女性に聞くと、祭りとウォーキングを組み合わせた町の募集行事に参加したという。周参見駅前に集合、すさみ交通のバスで西野谷川の入口まで来て、第1会場を回った後、東側の深谷の第2会場までウォーキング。そこからまたバスで明治時代の廃校舎や大杉といった「佐本遺産」を見学して周参見駅に戻るスケジュール。車を運転しなくても来られる気軽さもあり、中高年の女性の参加者が目だった。

  ◇特産の農産物、大阪の女子学生が笑顔で販売

 育苗施設では花の鉢植えとともに特大のカボチャ、ショウガ、シイタケなど西野川の特産物が人気を呼んでいた。ひときわ花を添えているのが特産物売場担当の女子大学生=写真右。すさみ町と連携協定を結んでいる摂南大学(大阪府寝屋川市)の地域サークルの4年生二人で、町内のイベントや祭りの大切な助っ人役を担っている。「大学の中だけではできないことを体験でき、地元の人から孫のようだとと受け入れてもらえて嬉しい。ずらりと並べた野菜をどんどん買ってもらえるとやりがいがあります」と話していた。
 
 キイジョウロウホトトギスの栽培者の減少や高齢化の問題は今も続いている。祭りでも2日間のメイン行事実施への負担から日程の分散など運営見直しを検討したこともあったが、キイジョウロウホトトギス生産組合の櫻井明組合長は「この祭りは集落にとっての華でもあり、10月の第1週の土・日開催は続けていきます。今年は高速道路の延伸もあってか、京阪神方面からの問い合わせも増えました」と話していた。

 6日にもウォーキングを実施、カフェフォノは10月1日から15日まで開くなど、花期の間は活動を展開する。「外からすさみ町に移り住んでくる人もおり、佐本地区以外に住む人にも関心を持って参加してもらうようにしたい」と育成の担い手の拡大を目指している。

 サトイモやシイタケを買い込んだ後、今度はのんびり歩いて入口まで戻って、車で第2会場の櫻井さんのオープンガーデンに向かった。櫻井道代さんのケーキやコーヒーは盛況で満席だったので遠慮して、石垣のキイジョウロウホトトギスや池のホテイアオイの花を楽しんだ。その後、先述のウォーキンググループにならって「佐本の遺産」を見学、南へ江住の海岸に下った。

 キイジョウロウホトトギスの育成地はほかにも出てきているが、やはり40年前に一株から広げていった山中さんの業績は記憶に留めておきたいと思う。新しい力を得て佐本のキイジョウロウホトトギス栽培が発展し、祭りがさらににぎわうよう願って帰途についた。
                            =2015年10月4日取材 (文・写真  小泉 清)

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