笠形山のアカヤシオ、クリンソウ  兵庫県市川町、多可町、神河町       

・花期 アカヤシオは4月下旬〜5月上旬。クリンソウは4月下旬〜5月下旬
・交通  南側からの登山口はJR播但線福崎駅からタクシーで5000円程度。東側からはJR加古川線西脇市駅から神姫バスで終点の大屋下車 。西側からはJR播但線新野駅から神姫グリーンバスでグリーンエコー笠形前下車
・電話  市川町役場(0790・26・1015)、多可町役場(0795・32・2388)、神河町役場(0790・34・0971)
ネイチャーパークかさがた(0795・30・5110)
   
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=2015年4月29日、5月13日取材

若葉が伸びる前に紅色の花が下向きに開くアカヤシオ
 
 
  黄金週間の4月29日、播磨富士の名で親しまれる名峰・笠形山(かさがたやま)(939m)を、南面の市川町寺家から登り、東側の多可町大屋の集落に下りた。山頂では薄紅色のアカヤシオがちょうど満開、南面中腹の笠形神社から尾根の笠ノ丸に向かう谷筋には、私には未知だったクリンソウの群落を“発見”、昨春は全く見られなかった大屋の上流の沢でも群落が回復の兆しを見せていて、明るい春の一日となった。

  薄紅に染まる頂、谷筋には赤紫の花園

  麓の集落から笠形神社への参道にかかろうとすると、神社から下りてきた地元の年配の男性に出会った。この笠形山はアカヤシオやクリンソウはもちろん、セッピコナンテンショウなど貴重種の木がここだけに自生するなど植物の宝庫という。神社の世話役のこの方も山道の手入れなどをして山を守っている。
  
 大鳥居を抜けて参道を進むと、笠形寺までの道端には石仏が続く信仰の道だ。大鳥居から1時間、標高500mの平地に笠形神社の拝殿と本殿が建つ。周囲は杉の大木が囲み、ひときわ大きい神木は高さ50m、幹周り9・5mと圧倒的な存在感だ。北側には「国宝姫路城心柱之跡」という石柱がある。1959年(昭和34年)の姫路城大修理の時に天守閣の心柱として、ここから高さ42m、幹周り4mの神木のヒノキが切り出されたという。

    ◇大木が囲む笠形神社を通り笠の丸へ

 笠形神社からしばらく杉林の急坂を登ると明るい尾根道に出るが、ここであえて東側にかすかに残っている谷沿いの踏み跡をたどってみる。笠形山南面にクリンソウがあるとしたらこの谷筋しかないと進むが、それらしいものはない。踏み跡もあやしくなってきたので引き返そうかと思うと、あのクリンソウの特徴のある大きな緑の葉が目に入ってきた。

 近づくと、200〜300株はある群落だ。まだわずかながら赤紫の花が開き始めている。昨年4月下旬に南面の谷を調べた兵庫県の保全グループの記録では2013年秋の水害で群落が押し流されて見られなかったとのことだった。まだ広く公開していないので、厳密には同じ場所かわからないが、相当回復してきているようだ。

    ◇深山に登ってこそ見られるツツジ満開

 群落は70mほどで途切れたが、今さら元の道に戻るのもと谷筋をつめていくと涸れ沢となり、尾根に取り付いて笠ノ丸に出た。コバノミツバツツジの紫がまぶしい新緑の樹林の道を上り下りし、前回使った神河町のグリーンエコー笠形から扁妙の滝を通る西側登山路と合流する。陽だまりにスミレの花がかたまって咲く尾根道を頂上に向かうと、頂上の南側手前からアカヤシオが満開となっている

 高さ5mほどの木だが、細い枝を伸ばし、薄紅色の花が下向きにいっぱい咲いている。ツツジの中でも深山の岩場だけに見られ、兵庫県では笠形山と雪彦山だけで見られるという。それだけに、満開の花が迎えてくれると、ぱっと明るい気持ちになる。
(四国や南紀でよくみられるアケボノツツジとは、花柄に腺毛があるのがアカヤシオ、ないのがアケボノツツジというほどの違い。笠形山では長くアケボノツツジとも紹介されてきましたが、専門家の観察で腺毛があるとされたことなどから今回からアカヤシオで記述します)

    ◇マイペースで登り下り、大屋地区主催の登山会

 麓から2時間半、正午前に山頂に立った。この日の頂上は、ところ狭しとばかりに登山者であふれている。祝日だからだろうが家族連れが多い。この日は毎年大屋地区が催している「笠形山登山」が開かれていて、ほとんどの人がこの参加者だった。一糸乱れずの集団行動ではなく、自由なペースで登り下りするという運営はいい。

 山頂北側にも7、8本のアカヤシオがあり、花越しに北側に広がる峰々を眺める。花と景色を堪能した後、私も参加者と前後して大屋への道をゆっくりと下った。前を歩いていた単独行の男性とあいさつを交わす。加東市から来た73歳のその方は、定年後は近在の山歩きを楽しんでいるが、4月29日の笠形山登山はこの10年毎回参加しているそうだ。

   ◇水害で壊滅のクリンソウ保護地、甦るきざしも

 尾根から急坂を下りて谷沿いになるが、最も注目していたのが一角にある「クリンソウ保護地」。クリンソウの広がる山と里づくりをめざしてきた藤田忠次さん(88)が40年近く取り組んできたところだ。昨年5月7日に訪れた時は、やはり前年の水害の影響で一本も見られなかったからだ。おそるおそる見てみると、20〜30株のクリンソウが育っていて、うち5、6本は赤紫の小花がついていた。5年前に訪ねた時には50株ほど見かけたので、まだまだだろうが、群生地として戻ってきていることは間違いない。

 谷はやがて落差15mの龍ケ滝、別の谷が合流して落差8mで落ちる勝負滝が続く。ともに見ごたえがあり、清冽な滝だ。クリンソウを目にして心が軽くなったので、名瀑を楽しみながら大屋側の出発点の「ネイチャーパークかさがた」に下り立った。ここで「笠形山登山」参加者は汁のふるまいを受け、記念バッジとクリンソウの鉢をもらう。私は権利はないのだが、先ほどの常連の登山者が「毎年もらっているので」と鉢を譲ってくださった。「夏を越すのが難しい」そうだが一度挑戦してみたい。

 ゴールの受付にいた市位裕文さんに話を聞いた。この「笠形山登山」は世帯数100戸からなる大屋地区がむらおこしにと住民が運営一切を行い実施。一度参加すると翌年も案内状を出し、事前予約もいらないので、常連の参加者が多いそうだ。行事で大きな役割を担っているのが市位さんら地元有志でつくる大屋ボランティアサークル(略称はOBS)だ。参加賞のクリンソウの鉢植え200株はOBSのメンバーらが育てている。自宅の庭でクリンソウを育成してきた藤田さんの志が受け継がれている。

                       ◇

 その後の開花状況を確かめたいと、2週間後の5月13日に幹線林道を車で上がり、OBSが整備した「明石海峡の見える展望台」に寄った後、保護地を訪ねた。6、7本の株は九輪草の名にふさわしく、花が上へ上へと積み重なっていた。ただ、今シーズンにどれだけ開花するかわからない。クリンソウの保護・育成のリーダー役のOBS事務局長の市位琢夫さんは「一昨年の秋の水害の後、保護地の復活をめざして里で育てていた株を植えたが、開花するまでになったのは一部。流れが変わったこともあり、以前のような自生地に戻るのはなかなかです」と慎重な見方をしている。
 
 それでも、篠山市の自生地で見られるように、ある箇所で生育しなくなっても、近くの場所で新たに育つなど、群落が移動しながら復活する可能性もある。大屋へ下る谷でも保護地付近は小滝もかかる快適なコースなので、これからもぜひクリンソウと出会いたいと願っている。
        (文・写真 小泉 清)



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