★ 門前の4商店街・市場の元気込め厄除けうどん                                                
 福聚寺での「太刀合わせ」が11時半ごろ終わり、鬼役、指導役、世話役の人たちについて長田神社に戻った。「練り込み」まで1時間ほどあるので境内を回ると、「長田さん乃厄除うどん」と掲げられた出店があった。天幕の中に長机とパイプ椅子が置かれた簡易なつくりだが、「追儺式の当日限定」「鬼がついた厄除け餅と五色の具入り」という触れ込みにつられて入って注文した。

 ◇彩り豊かに五色の具、追儺式を盛り上げ

 食べる前に観察すると、奉賛会の紋付に描かれた「葉つきの桃」の印が焼きこまれた餅と五色の具=紅白のかまぼこ、水菜(青)、しいたけ(黒)、出し巻卵(黄)=が入っている。見た目に美しく、味わいも豊かになっている。追儺式を昨日から一緒に取材していたフランス人研究者の箸も進んでいた。「一杯800円」はやや割高感があるが、売上は奉賛会に寄付されて追儺式の運営に充てられるということで納得。

 厄除け餅だけの販売もあり、正午をすぎるとお客さんが増えてくる。長田神社地域活性化協議会のはっぴを着た皆さんが手際よくつくり、運んでいく。地元商店のおかみさんらなので、要領がいいのも当然だ。

 ◇長田さん前の地の利フル活用、難局に立ち向かう

 出店と商店街を行ったり来たりと忙しい五嶋靖浩会長(72)に、商店街と神社のつながりについてうかがった。活性化協議会は長田神社前商店街、プレノ長田、長田中央いちば、NAGATA食遊館で結成。うち、長田神社前商店街は大正9年ごろ門前町商店街として成立、食遊館はコメ騒動後の物価対策として設けられた長田公設市場が前身となるなど古い歴史を持つ。

 20年前の阪神大震災で、長田神社前商店街の商店は大半が全半壊、中央いちばと食遊館は入居ビルが全壊するなど大きな被害を受けた。多くの店が仮設店舗からの再建を果たしたが、周辺の人口減など厳しい状況は続いている。そのため、長田神社前にある地の利を生かし、神社の行事と合わせたイベントをどんどん打って人を集めようと、何ごとも4団体が連携して取り組んできた。毎月のおついたち参りに合わせて開く「ぽっぺん工房市座」や「ぽっぺん市」、「長田満腹茶屋」が人気を呼んでいる。

 追儺式に合わせた「厄除けうどん」も、協議会での話し合いから出てきた企画だ。ちなみにはっぴに描かれているフクロウは「みんなに幸せと元気を届ける」というフクロウのグージー(宮司)ファミリー。初夏に長田神社に渡ってくるアオバズクをモチーフにしている。

  ◇空き店舗に誘致、もっともっと人集めたい

 「火災を食い止めたこともあり、震災からの立ち直りは早かった」長田神社前。元気な商店街として注目度も高いが、五嶋さんは「量販店やネット販売の影響はここでも強く、まだまだ落ち込みを何とか食い止めている段階です。半径1キロくらいの住民の7割は常連客になってもらい、追儺式への参拝者ももっと多く寄ってもらうようにしなければ…」と話している。

 たしかに、商店街や再開発ビルを歩くとシャッターが下りたままで「売店舗」と書かれた商店が結構ある。震災の被害を乗り越え再建したのに、その後が続かずに閉店した店もあるという。和・洋菓子やパン、惣菜などは豊富で喫茶店もそろうが、門前町としては「ちょっとお昼を」といった時の選択肢がもっとあれば、という気がする。

 「空き店舗に入居を待つというのでなく、食を中心に外からもいい店を積極的に誘致していきたい」と五嶋さん。700年の伝統の神事も、いまがあってこそ。門前の益々のにぎわいを期待したい。                                  (文・写真  小泉 清)

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