比良・権現山の春雪の樹林 大津市          

   
        
   春雪の権現山山頂から東に琵琶湖を望む(2008年3月6日)

・時期  積雪期は12月~3月

・交通案内  
2013年現在はJR湖西線堅田駅から江若交通バスで平下車が一般的。京阪出町柳駅からの京都バスは3月16日~12月15日の土・休日だけ運行。栗原からは江若交通バスでJR湖西線和邇駅に

電話 津市役所(077・523・1234)、びわ湖バレイ(077・592・1155)=積雪状況の参考程度

・注意   積雪期はアイゼン、ストック、スノーシュー持参

                        =2008年3月6日取材、2013年3月8日再取材=
        
 2008年は3月を迎えても春の歩みがゆっくりだ。急いで花を追うよりも雪山の余韻を味わおうと、再び冷え込んだ6日の朝、比良山系南端の権現山(ごんげんやま、996m)に向かった。

   琵琶湖の水と生命守る比良の積雪    

 今は国道367号となっている鯖街道を京都から北上すると、八瀬、大原と進むにつれ雪景色が広がっていく。滋賀県に入って花折トンネルを抜け、平でバスを下りると、待合所の前に除雪した雪が高く積み上げられていた。国道を少し南に戻って登山口から山に入っていく。昨晩から降り続いた雪が重なった様子だが、わずかに登山者の通った踏み跡(トレース)が残っており、これを追って登っていく。麓から山腹まで植林された杉林が続き、葉の先端から枝、幹と雪にすっぽり包まれている。

  ◇沈む新雪、スノーシューが威力

 雪道をゆっくり1時間20分で最初の目標地点のアラキ峠に着いた。少し一服して尾根道を上がろうとするが、風の吹き方からか、これまでついていたトレースまでが消えている。尾根筋ははっきりしていて赤テープの目印もところどころついているので迷う心配はないが、降り積もったばかりの新雪に踏み込むと、ずぼっと沈んでしまった。

 ここでスノーシューを取り出して靴につける。日本伝統のワカンジキにかわって数年前から広まってきた雪上を歩く道具で、実戦に使うのは初めてだが、慣れてくると斜面の歩き方の要領もわかってきて、踏み跡がなくても進んでいけるのが心強い。

 この尾根道は上部まで植林されていてやや単調なきらいはあるが、峠から1時間ほどで人工林が途切れてツツジ類の低木などに変わり、一転見通しが良くなってくる。西側を振り返ると京から若狭へと北山の峰々が連なっている。さらに上がると、東側の眼下にぱっと琵琶湖が広がる。昼過ぎには快晴となり琵琶湖大橋もくっきり見え、琵琶湖をとりまく近江平野一帯をとらえられて爽快だ。

 琵琶湖に下りる斜面には、雪をまとった落葉広葉樹林が続いている。正午前でも気温は零度から上がっておらず早朝は相当冷え込んだようで、枝の雪が氷化して樹氷のようにも見える。何もなければ葉を落として殺風景な木々も、今は一斉に真っ白な雪の花が開いたような華やかさだ。

  ◇積雪150cm、山頂の標柱も埋まる

 山頂付近はゆるやかな高原状になっており、どこが頂かはっきりしない。確か山頂の標柱があったはずと探すと、雪の上から15cmほど頭をのぞかせ「権現山」の「権」の字だけが読める木柱が見つかった。無雪期の写真では大人の背丈より高い標柱だったので、山頂では冬からの根雪の上に春雪が重なり、積雪150cmはあるだろう。

 頂上からさらに北東へ尾根道を進む。大きく枝を広げたアセビの木が何本かあり、雪をかぶった常緑の葉の間に、赤みを増してきたつぼみが目立つ。雪解けの始まるころには、ワインレッドを帯びた白い小さな花がいっぱい見られることだろう。

 眼前には次の頂のホッケ山が横たわっている。そこから小女郎峠を越えてびわ湖バレイのある蓬莱山へと比良山系南部の縦走路をたどりたいところだが、夏道より倍ほど時間がかかる雪の状態では難しい。午後1時すぎから南東の栗原へ下る山道をとる。

 下山路の入り口は雪に埋もれてやや不安があったが、少し進むとわずかながら踏み跡が残っていて急坂を一気に下った。平からの尾根道と違って中腹まではナラ、リョウブ、ネジキなどの落葉樹やアセビといった自然林が続いている。早春のやわらかな陽射しを受けて伸びる淡い樹影をのせた新雪の上を歩くのは心地よい。

 午後2時ごろになると、さすがに気温も上がって木々の上の雪が解け出してきたようで、どさっと落ちる音がしたり、微風に舞い落ちたりして思わず足を止める。雪山の厳しさは冬と同じでも、日が長くなる分だけ雪の表情を楽しむゆとりが出ててくるのも春の恵みだ。

  ◇「上流の水清ければ水道の水も清し」

 やがて樹林は杉やヒノキの植林に変わり、雪に包まれながらも谷川の水音が聞こえてくる。山道から里道となって進んでいくと、水飲み場のわきに小さなほこらが祀られていた。そこから40分歩いて栗原の集落。喜撰川に沿った「行者講水行場」の石碑横に「上流の水清ければ、琵琶湖の水も清し 琵琶湖の水清ければ、水道タンクの水も清し」と書かれた看板がある。さらに進むと水分(みまくり)神社の立派な社殿が建ち、鳥居の右手に雪に包まれた比良山系の稜線が連なる。「権現山には白山権現をお祀りする社があり、毎年7月20日には登って、水が豊かであるように祈願しています」と、むらの人に教えてもらった。

 栗原をはじめとする山ろくはもちろん、京阪神など近畿の人々の生活を支え、生命をはぐくむ琵琶湖水系の水。琵琶湖の水位は春の雪解けとともに上がっていくという。琵琶湖のすぐ西に連なる比良山系に降り積もった雪が、これから解けて谷川をつたって琵琶湖に注いでいく。先ほどまで触れていた新雪の感触が心地よくよみがえってきた。


   *5年後の再登*

 2013年は3月になって急に暖かくなってきたが、もう一度雪の山にと5年ぶりに権現山に向かった。昨年から出町柳発の京都バスが冬季運休となったので、平到着は遅めの9時半。登山口では雪はほとんど見られないが、登るにつれて雪道となっていき、アラキ峠からはほぼ雪に覆われている。そうはいってもツボ足で沈みほどではなく、スノーシューをつける間もなく山頂に着いた。気温は10度近くまで上がっているが、時おり強い風が吹き付ける。

 今回は山頂の標柱はすぐ見つけられ、積雪も60cmくらい。それでもここはツボ足では歩きにくく、持って上がったスノーシューが役立った。大陸からの黄砂の影響で、琵琶湖がかすんで見える。

 栗原への下り道は、今回は取り付きの地肌が見えていて迷うこともなかった。しかし、下りだすと雪道となり、踏み跡が途切れたりしている場所もあり、油断するとコースを外すこともあるので気を引き締める。ここしばらく降雪がなかったようで、前回のような雪景色は見られなかったが、残雪の山の楽しみは十分味わえた。
                              
(文・写真  小泉 清)