高見山の霧氷  奈良県東吉野村             

   
        高見山の霧氷と室生の山々遠望
   霧氷が満開の木々の向こうに室生の山が連なる     

・時期  1~2月

・交通案内  
1~2月の土・日・祝日だけ、1日2便近鉄大阪線榛原駅から高見登山口へ霧氷バス運行。帰りは高見平野発 。路線バスは廃止。

電話 東吉野村役場(0746・42・0041)、 奈良交通(0742・20・3100)

注意 アイゼン必携。ストックも持参した方が良い。

                                =2013年1月5日取材=
        
 
  年末年始の酔いからようやくさめた1月5日、新年登山として高見山(1248m)に向かった。朝の冷え込みが効を奏してか、山頂付近のブナやヒメシャラなど落葉広葉樹の枝は見事な霧氷をつけ、その向こうには室生や大峰の山々が連なっていた。

   新年の稜線に「冬の華」満開

 今シーズン初の奈良交通の霧氷バスに乗って、午前9時過ぎに高見登山口へ。週末からの冷え込みである程度の雪景色を予想していたが、雪は全く積もっていない。やや殺風景な冬景色だが、霜柱や氷を見るとかなり冷え込んだとみられ、「霧氷は見られるのではないか」という期待を胸に一歩を踏み出した。

 杉林の間を上がる道はまもなく石畳も現れ、意外と歩きやすい。さすがに伊勢から大和を経て紀州に向かうメインルート、伊勢南街道だ。紀伊徳川藩主が参勤交代に使ったこの道は、実は日本最大の活断層・中央構造線に沿ったというより活断層がつくりだした自然のルートでもある。

 伊勢から魚や塩を運んできた商人が市を立てたという古市を通り過ぎてしばらく進むと、道が通行止めになっていて迂回路がつけられていた。道の路肩が崩れでざっくりえぐられ、周辺の斜面も崩壊して、杉の高木が何本もなぎ倒されている。2011年10月に紀伊半島を襲った台風11号の爪痕だ。

 登山口から1時間で小峠。12年前に登った時は伊勢南街道をそのまま東に向かって、伊勢と大和を区切る大峠(高見峠)に達し、ここから街道と別れて北へ山頂を目指すルートをとった。今回もそのつもりだったが、事前に東吉野村役場に問い合わせると、台風11号で道が崩壊して通行止めになっているという。そのため今回は小峠からすぐ北東への山道を上がるルートを迷わずとった。

  ◇伊勢湾から吹き上げる風がつくる造形

 鳥居をくぐると、いきなり急坂が続く。25分ばかり登り続けると、北西山麓の平野(ひらの)の集落から上がってくる尾根道に合流する。ここからは坂の勾配も緩めになる。標高1100mあたりから道をうっすら雪がおおうようになる。木々も杉林からブナ、リョウブ、ヒメシャラなどの落葉広葉樹林となり、その枝が白く輝いている。始めは雪の吹き残りかと思ったが、まごうかたなく霧氷だ。霧氷は空気中の水蒸気が氷点下の寒さによって昇華し幹や枝の周りに凝結してできる。伊勢湾から吹き上げる風が高見山を樹氷の名山にしている。それでも、朝の気温など気象条件によっては見られないだけに、来たかいがあった。しばらくはブナ林が続くが、灰色の幹がさらに白銀をまとい貴婦人のような気品を感じさせる。

 尾根道に沿って、「神武天皇が熊野・伊勢から高見山を越え、吉野に入る時によじ登って四方を望見した」という国見岩など、巨岩が続き、その名のいわれを紹介した案内板があって興味深い。笛吹岩には「高見山の開祖上人が月夜にこの岩頭で笛を吹けば、谷から雌雄の大蛇が駆け上がり聞き入った」と書かれ、巳年にふさわしい岩だ。

  1200mを超えるとブナは退いて低木が主になり、頂に向かってせり上がるように連なって、それぞれの枝に霧氷が輝いている。根元が細く先が広がった「エビのしっぽ」など様々な姿を採り、"冬の華"と呼ぶにふさわしい。 そして、霧氷の枝越しに尾根の左手=北側には室生の山並みがはっきりと見えてくる。青空が広がり、古光山、倶留尊山など特徴のある山容の山だけによくわかる。

   ◇北に室生、南に大峰の山々くっきり

 登山口から2時間半、正午前に山頂に立つ。神武天皇が熊野から吉野に入る際案内役を務めたと伝えられる八咫烏(やたがらす)の化身・建角身命(たけつのみのみこと)をまつる高角(たかすみ)神社=写真=がある。展望台からは先の室生の山並みが遮るものなしにとらえられる。山頂手前に「今なら御岳が見えますよ」と言われたので、急いでその方向に目をこらす。雲と重なっていて判然としないが、室生の山々のかなたのずっと高い位置に、白い峰のようなものが見える。続いて南に目を向けると、西から国見山、薊岳など台高北部の山、東奥には大普賢岳、山上岳をはじめ大峰の峰々が連なる。

 12年前には頂上に立った途端、にわかに天気が崩れて吹雪き、視界がきかなくなったが、それと同じ頂上とは思えない。「毎年、冬に一回は高見山に登りますが、こんなに四方の山々を見渡せることはめったにないですよ」とベテラン登山者にも声をかけられた。眺望を堪能したので、12時半には下山にかかる。分岐点までは同じ風景だが、午後の日差しを受けて葉をおおった雪が上からはらはらと落ち、霧氷も少し薄くなってきた感じだ。これから登ってくる人と挨拶をかわすが、きょうは早めに登っておいて正解だった。

 分岐点から今度は北西へ平野道をたどる。谷川を渡ると樹齢700年の高見杉に出会って鳥居をくぐる。ここからは杉、ヒノキの植林地の中の道をひたすらに歩き、午後2時に平野の集落に下りた。高台に上がると、前山の木立の上に先ほど越えてきた高見山の白い頂が浮かぶ。大和と伊勢を区切り、かつてニホンオオカミが駈け巡った山々。その厳しく豊かな自然が霧氷の華を開かせる。       
                          (文・写真  小泉 清)

 [参考図書] 東吉野村史編纂委「東吉野村史 通史編」 東吉野村教委、1992


 「平野風」から家守る杉の防風垣