大大阪の命支える浄水場を見る              
   4月の柴島浄水場の桜並木通り抜け以来希望していた浄水場見学が師走にようやく実現、大阪市水道局職員の案内で淀川の水から高度浄水処理をしてきれいな飲み水をつくるしくみを教えてもらった。

  
◇おいしい水づくりへ何段階も

 同行の“関西のおばちゃん”2人とまず「水道教室」を受講。何段階にも及ぶ高度浄水処理の一部を再現した実験を見せてもらった。凝集沈殿は硫酸バンドを入れてかき混ぜ、細かい濁りを吸着させて沈める過程。急速濾過は中オゾン処理の後、淡路島産の細かい均一の砂の層でこす。さらに後オゾン処理を行い、石炭を蒸し焼きにした砂粒ほどの活性炭に通して有機物質を除去、その後で塩素消毒を行うという順序だ。安全面から実験ではオゾンや塩素は使えず、実施したのは凝集沈殿、急速濾過処理、粒状活性炭吸着処理の3過程だが、処理前と後の水を比較すると、目でも鼻でも、これだけでもきれいな水になっていることがよくわかる。

   このあと、甲子園球場13個分の50haに及ぶ浄水場の一部を案内してもらった。テロ対策もあり、こうした機会でないと立ち入ることができない“聖域”だ。先ほどの浄水プロセスのうち実際に水を見られるのは凝集沈殿池だけだが、混和池、フロック形成池、沈殿池の順に細長いプールがいくつも連なっていてなかなか壮観だ。よく見ると、大きな攪拌機が水中で動いていて、後の水槽になるほど水は澄んでくる。

 凝集沈殿地の底にたまった沈殿物(スラッジ)は水分を抜いて固められ、このスラッジケーキが処理施設から吐き出されていた。一日に出るケーキは50tに及び、搬出されて埋め立てなどに使うそうだ。

  オゾン発生器やオゾン接触池は、オゾンが外部に漏れると危険も伴うため厳重に管理され、内部は見られず、模型で説明してもらう。高度浄水処理を終えた水は配水池にためられるが、その配水池は目前の広大な芝地の下にあるという。清潔さと水温を保つため池は地価に設置、ふたをして地面で覆っているそうだ。これだけの芝地、見学の小学生の遊び場にするのかと思ったが、作業を除いて立ち入り禁止という。一部には試験的にソーラーパネルが設けられていて、浄水場の電力はとてもまかないきれないが、40戸分の電力を発電しているそうだ。

 水道教室や浄水場見学は大阪市内の小学生が主体だが、大人が見ても十分勉強になる中身で、案内スタッフも経験豊かな職員で説明も丁寧でわかりやすい。3時間近い説明と見学で、世界の先端を走ってきて、ベトナムにも技術協力をしている大阪市の水道の仕組みが、ほんの一部ながらよくわかった。

  ◇貴重な淀川水系の生物展示存続を

 4月から休館中の水道記念館も間近で見られ、館内の一室で昼食も取れた。市水道局によると記念館は展示内容をリニューアルした上で来年秋に再オープンするという。閉館ではなく、国登録有形文化財の名建築が再び生きるのは良かったが、淀川水系の水生生物121種類6472個体を飼育・公開していた展示施設は廃止し、他の専門施設に移管するという。展示種には絶滅危惧種で国の天然記念物のイタセンパラやアユモドキも含まれ、2006年には秋篠宮殿下も見学された。自然保護団体や研究者団体が「種の保護や環境教育にとって重要な施設」として展示の存続を求めているが、同局は「給水収益が減少する中、年間3000万円の経費がかかる水生生物の飼育・展示は抜本的に見直す必要がある」としている。

 記念館の裏面側には淡水魚飼育研究棟の銘板が掲げられ、「琵琶湖・淀川水系の生き物を展示しているのは滋賀県立琵琶湖博物館と大阪府水生生物センターだけ」などと誇らしげに記されている。しかし、入口には「現在見学できません」と張り紙がされ、寂しい気持ちがつのる。

 琵琶湖・淀川水系の生物を見るだけなら他の施設で代替できるかもしれない。しかし、水を中心にすえた人と自然のかかわりを学ぶ場として、淀川下流域の大都市域にある浄水場内の施設は実にふさわしく、記念館にこうした取り組むみを始め続けてきた人々の視点は高かった。

 目先の勘定だけに走るのではなく、利用者や大阪府などの一定の負担など運営の見直しをしながら、これまで蓄積してきた貴重な資産や人材を有効に活用することが必要ではないだろうか。

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 浄水場見学の問い合わせは、大阪市水道局総務課(電06・6320・2874)
                     
                                                           (文・写真  小泉 清)

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