晩秋はノジギクが主役 神戸の牧野公園              
  「大塩のノジギク」を全国に広めた不世出の植物者・牧野富太郎は2012年が生誕150年。師走の足音が聞こえる小春日和の11月29日、神戸市兵庫区の「牧野公園」(会下山小公園)を訪ねた。平清盛ゆかりの街並みを見下ろす公園にはノジギクやツワブキなど牧野博士が命名した植物が咲いていた。

 神戸の資産家・池長孟が「牧野が標本を売るまでに経済的に困っている」と聞き、標本の展示や研究拠点にと建物を提供して1918年に開所した池長植物研究所。この跡地にできた「牧野公園」は昨年4月、会下山公園に花見に行った時に“発見”し、「牧野富太郎の足跡よみがえる」として紹介した。この時に話をうかがった山中敏夫さん(84)から年頭に「今年は牧野博士の生誕150年。これを記念して牧野公園に博士ゆかりの植栽が再整備されました」と知らせてもらったことから再訪した。

 行政上の名は会下山小公園だが、地元では牧野公園で通っている同園は1997年にオープン。阪神大震災から2年後だったため、整備は十分できない状態だった。牧野博士の泊まった「会下山館」の門柱石が見つかって会下山小公園に設置された2010年、「牧野博士の生誕150周年を前に、博士が名付けた植物をそろえた公園に」という声が会下山町内から起ってきた。要望を受けた神戸市中部建設事務所が2500種を超す牧野命名の植物から、小公園に合った草本や低木で、手に入れやすく育てやすい植物、花の咲く時期のバランスも考えて20種の植物を選び、昨年秋までに植栽を終えた。

 前から植えられていたスエコザサ、オカメザサに加え、春はミヤマキリシマ、シロバナヤマブキ、夏はクチナシ、ヒメヤブラン、ハマカンゾウ、ミソハギ、秋はキンモクセイと咲き継がれ、現在はノジギクとツワブキが主役だ。大塩の日笠山とは比べるべくもないが、街中で気軽にノジギクを見られる。牧野はこの研究所を関西での仕事の拠点としていた1929年、大塩でノジギクの大群落を見つけたほか六甲山麓でも採集しており、ノジギクは牧野公園の主役にふさわしい花だろう。

 キャラボクの低木やコモチマンネングサもあり、見慣れた植物でも牧野が名付けたと聞き、94歳で亡くなるまで研究を続けた牧野の活動範囲の広さに改めて驚く。 中部建設事務所では「広い会下山公園では牧野博士ゆかりの種のサクラやアジサイを植え、小公園と合わせて充実させたい」としており、楽しみだ。

 
 花の向こうには平清盛が大修築した大輪田泊、江戸時代に西廻り航路の拠点として栄えた兵庫津と、ミナト神戸の原型として発展してきた兵庫の街並みが見渡せる。

 11月には講演会や観察会などの生誕150周年記念イベントが開かれ、多くの市民が来場して牧野富太郎の人気の高さを示した。イベントで牧野公園ができるまでの歩みを語った山中さんは「牧野博士ゆかりの植物がそろい、開園の時に目指していた願いが実りました。今年は清盛ゆかりの史跡を巡るグループがよく立ち寄っていました」と喜ぶ。さらに「『これまで知らなかった』『牧野博士の研究所があったという話は耳にしていたが、どう行けばいいのかわからなかった』などの声も聞いた。街中の案内板なども充実し、地元はもちろん、多くの人が牧野博士を通して植物に親しむきっかけの場になってほしい」と話している。
                                                              (文・写真  小泉 清)

                                      →本文のページへ戻る