「天下ノ絶景」面河渓で登山の疲れいやす               
    石鎚山から下りた翌日の8月1日、面河渓を少し散策した。宿泊した「国民宿舎 面河」から北へ支流の鉄砲石川沿いにさかのぼった。昨日下りてきた本流のような緑碧の深い淵=写真右=はあまり見られないが、谷へ切り落ちた急崖は、花崗岩が節理した鎧岩=写真左=、兜岩と呼ばれる奇岩となり、石鎚山の噴火活動を始め大地の動きが作り出した自然の妙の造形を見せている。先へ進むと布引滝が優雅な細い二条の姿となって落ちてくる。鎧岩の下に浅めの淵があったので清冽な水の中に入る。山から流れ落ちた水は身を切る冷たさで、心身が引き締まる気がする。
 谷沿いの道はまだ上流へ続いているが、バスの運行便が限られているので1時間ほど歩いたところで引き返し、宿舎でリュックを引き取る。この国民宿舎も11年前に訪れた時は面河村の経営だったが、今は土小屋の白石ロッジなどと一体的に運営されていて、瓶ケ森白石小屋にもいたベテランのスタッフの人が一人で立ち働いていた。石鎚山系のことは知り尽くしているようで、出発前から面河道での迷いやすい場所などを助言してもらえた。

 本流沿いの道を30分ほど下ると面河渓の入口の関門に着き、面河山岳博物館に寄った。運営主体だった面河村は平成の大合併で2004年に久万高原町として統合されたが、全国でも少ないこの山岳博物館が面河の名を冠して続いているのは嬉しい。石鎚山に関する自然、人文資料の常設展示はもちろん、特別展もよくしていて、7月21日から9月2日まで特別展「あなたの知らないカメムシの世界」を開催。学芸員の矢野真志さんが“カメムシ博士”だけに全国から集めた標本や資料も展示、「臭いにおいのものだけでない」カメムシの魅力を全開で伝えている。ちょうど松山市の小学生が泊りがけの自然学習で来館していて、元気に質問していた。6月24日までは企画展「天下ノ絶景面河渓」を開催、面河渓が国指定名勝となり与謝野晶子や尾崎行雄など著名人の来訪が続いた昭和初期、「大正広重」と呼ばれた吉田初三郎の鳥瞰地図や観光宣伝用絵はがきを集めて展示するなど館の活動は活発なようだ。

 もともと高知県との結びつきが強く、11年前も面河からバスで高知市へ向かったのだが、今では接続の関係でバスや鉄道を使って高知市に出るのは事実上不可能。昼過ぎのバスを途中の久万高原町役場で乗り換えて松山市に向かった。関門のバス停前の商店で面河渓の水を使った地酒や山菜を買い込み、あわててバスに乗り込むと、降りの強まった雨の中、店のおばあさんが手を振って送ってくれた。           
                                                 (文・写真 小泉 清)
                               
                                                                  →本文のページへ戻る