青葉山のカワラナデシコ       京都府舞鶴市、福井県高浜町     

・花期 
7月

・交通  東舞鶴駅発の京都交通バスで松尾寺口下車、少し遠いがJR小浜線松尾寺駅から徒歩。いずれも便数は少なく東舞鶴駅からタクシー利用が便利
高浜側は小浜線青郷駅か京都交通バス青郷

・電話  舞鶴観光協会(0773・66・1024)
高浜町観光協会(0770・72・0338)
松尾寺(0773・62・2900)

  
 
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      =2012年7月18日取材



東峰のすぐ西側の難所の岩場に立つカワラナデシコ

 
 

 今年3月に深い雪の中を進んだ松尾寺から青葉山への道を再び登り、西峰から東峰への険しい稜線をたどった。青葉山の固有種オオキンレイカはわずかしか見られなかったが、涼風が吹きあげるブナ林の続く尾根にはカワラナデシコやヤマアジサイが続き、頂からは若狭湾が眼下にとらえられた。

    若狭湾見下ろす岩稜に凛と

  近畿が梅雨明けした日の翌朝、ネムノキの花が残る参道を上がった。松尾寺でまず栽培地のオキンレイカの花を確かめる。花の場所が裏手だったのでわかりにくかったが、確かに牧野富太郎博士が名づけた「大金鈴花」の名のように、黄金色の小花を鈴のようにつけている。寺の人に「山ではもう見られないと思いますよ」と言われたので、花の印象を記憶にとどめ、本堂の裏から登り始めた。

 もちろん夏の青葉山はオオキンレイカだけではない。杉林の植林帯を抜け、標高400mあたりから急坂にかかると、オオバギボウシが現れる。標高500mを越えてブナ林となると小さな白い花をつけたチゴユリやオカトラノオも顔を見せる。修験の歴史を留める「青葉山妙理大権現」が祀られた松尾寺奥の院あたりではヤマアジサイが彩る。

  登り始めは好天で汗が噴き出していたのだが、ありがたいことに高度をあげるにつれて、暑さがどこかに吹き飛んで行った。豊かな樹林は木陰をつくり夏の日差しを遮ってくれる。登山道はだらだらの登り坂でなく、はしごやロープを頼りに登る岩場も混じりそこそこの緊張感も求められる。そして松尾寺から1時間半ほど、頂上に近づくと風が吹き上げてくる。

  
◇古希から登頂続け登山道を守る

  西峰の山頂で、この日初めての登山者に出会った。二本のストックで軽やかに歩いてくる。舞鶴市に住む高宮八郎さん(75)で、4年で800回を超す青葉山登頂という。回数もさることながら歩く姿勢の良さにひかれ、山頂の小屋で話をうかがった。高宮さんは18歳で舞鶴教育隊に入って以来、53歳で定年退職するまで35年間の自衛隊勤務、護衛艦に乗り込んでいた。道理で背筋が伸びているはずだ。その後、陸に上がって働き、自由になった71歳から青葉山に登り始めた。

 教育隊以来、訓練では何度も登ったが、今は心のまま。二日に一度は登っている勘定で、当面の目安の千回も遠くない。早朝、近所の人と指導員の資格を持つグラウンドゴルフをプレーした後、11時ごろから車で西峰真南の高浜町今寺まで来て、今寺道を上り下りして3時ごろには帰るのが基本パターンという。「7月、8月は家にいても暑いだけなので、ほぼ毎日上がっています」。この日の登りの経験からも「青葉山は涼しい」は納得できる。

 登りながら登山道の点検と修復を行う。「今寺道は時間がかからず下りられると利用する人が増えていますが、やたらと下っていくうちに枝道ができ、迷う人が出るようになりました」と、今寺の集落の人とともに、かまぼこ板を使って登山道の修復をしている。松尾寺からの登山道は冬の豪雪で倒木が道をふさいだために、倒木を取り除いてきたという。さらに、急こう配の箇所のロープは、漁港から不要となったロープを譲り受けて取り付けている。「付け方を誤ると命にかかわります。自衛隊で、もやい結びなどロープの扱いを仕込まれたことが役立っています」と話していた。

 山頂には今寺集落の社が祭られており、8月6日には今寺の人々が登ってきて祭りが行われる。海側に大きな岩塊があり、鎖を頼りに登ると、眼下に若狭湾、特に手前に大きく入り込んだ内浦湾が手にとるように見える。これだけ海の景色を山頂から間近にとらえられる山は少ない。

 内浦湾の東寄りには今年2月から運転を停止している関西電力高浜原発、さらに右手の東側の大島半島の突端には現在、日本で唯一動いている大飯原発がある。 原発のあり方については議論が分かれるところだが、日本の電力供給に大きな役割を果たしてきた若狭湾沿岸の地域の歴史と現実の重みは押さえておかなければならないだろう。

 ◇泰澄上人が修行く? 大師洞彩るヤマアジサイ

 一休みして東峰への尾根道を進む。中ほどには泰澄聖人が修行したと伝えられる大師洞。ヤマアジサイが彩る岩室の間を抜け、東峰頂上の手前で最大で最後の難関の岩場が現れる。鉄ばしごやロープはしっかり固定されて危険はないはずだが、青葉山をめぐるコースの中で最大の緊張と高度感を味わう場所だ。 急な鉄バシゴを登り降りする岩場の上部にカワラナデシコやイブキジャコウソウが見られる。足場が不安定だが、高山の雰囲気も感じられる場所だ。

 7月26日からのロンドン五輪で女子サッカー「なでしこジャパン」Vが期待されるが、このカワラナデシコの岩稜の上の凛としたたたずまいは印象的だ。

 ここを乗り切ると、ふもとの青葉神社の奥社がたたずむ東峰の山頂。標高はそれほどでなくても険路を越えてきただけに達成感は大きい。このあたりは古いブナ林=クリックで写真=がよく保たれており、幹周りが二抱えあるような大木も見られる。

  ◇オオキンレイカは人目を離れた断崖に

 ただ、残念ながら自生のオオキンレイカは西峰の近くで1、2株をかろうじて目にしただけで、群落という状態ではなかった。谷に向かって切り落ちたがけにあるため、体を確保しなければ撮影も難しい。「今年はオオキンレイカの花が少ない年のようですが、花を見つけると採る人もまだまだいるようです」と高宮さん。私が3年前に登った時、東峰と西峰の間の岩場で見たので注意して進んだが、今回はそこでも花は見られなかった。

 当時、自然保護団体「青葉山レインジヤー隊」隊長の荒木邦雄さんを訪ねると「少年の頃は頂上付近を黄金色に染めるくらい広がっていましたが、適度な日照の条件を保つブナ林の減少に加え、山野草ブームで乱獲が続いて激減。人が歩いて近づける群生地は荒らされてしまいました。現在まとまって自生しているのは、がけの岩場に限られて一般の登山者ではなかなか見つけられないでしょう」といわれたが、現在もその通りのようだ。同隊を中心にパトロールの強化や種からの増殖などの取り組みが続けられてきたが、「黄金の花」を山道で身近に見るにはまだ時間がかかりそうだ。

 ◇山麓の中山寺、流麗に本堂の屋根

  高浜町の中山寺に下りる下山路は、舞鶴側の松尾寺からの道に比べると長い分なだらかだ。標高500mほどの下から植林帯となるが、今度は気楽に歩き続けて青少年旅行村登山口に下りる。里の道を進むと中山寺に着いた。

 現在は真言宗御室派のこの寺は、白山を開いた泰澄上人が736年に開創したと伝えられ、かつては修験の基地でもあったのだろう。本尊の秘仏・馬頭観音坐像が去年から今年にかけて33年ぶりに御開帳されたが5月20日で終了し、残念ながら見逃してしまった。青葉山をはさんだ松尾寺と比べ訪れる人は少ないが、鎌倉時代に再建された国重文の本堂の屋根は流れるように美しく、青葉山麓の古刹の落ち着いた雰囲気が感じられる。

 中山寺の山門を下り、青郷(あおのさと)駅に向かう。青い山、青い海、青い空をたっぷり味わいながら、青田の広がる里を歩いた。
              

                                       (文・写真 小泉 清)