多紀連山のヒカゲツツジ  兵庫県篠山市           

   
        
        名前は地味だが、多紀連山の春の連休の主役はヒカゲツツジ。
       日本で自生するツツジで唯一の黄色の種という

・花期  4月下旬〜5月上旬

・交通案内
 JR福知山線篠山口から神姫バスで篠山営業所、日本交通(0795・94・1188)の乗り合いタクシーまたはタクシーで小金口下車

電話 篠山市役所(0795・52・1111)
                       
                                    =2012年5月4日取材=
        
 
  

  城下町のたたずまいが残る篠山市街の北側に連なる多紀連山。かつて丹波修験道の聖地だった岩稜の続く峰々を黄金週間に歩くと、ヤブツバキ、アセビなど早春の花々が残る中に、ヒカゲツツジやコバノミツバツツジなどの花が満開となっていた。

    丹波修験の岩場を黄金に染める

  多紀連山は東から小金ケ嶽(こがねがたけ、725m)、御嶽(みたけ、793m)、西ケ嶽(にしがだけ、727m)の峰が20キロに渡って並ぶ。その中でも最も岩場が多く登りごたえがありそうな小金ケ嶽の頂をまず目指した。山里の小金口の集落から武庫川源流の谷川沿いの道をたどっていく。ところどころにヤブツバキの真紅の花が緑の中に浮かぶように残っている。山道に敷き詰められるように続く散ったツバキも鮮やかだ。
  谷を西岸から東岸に渡るところにクリンソウの花が3、4輪開いていた。さらに少し谷を離れた湿地には群落が広がっており、「クリンソウを守る会」がロープを張って保全を呼びかけていた。6年前にこのコースをたどった時にはクリンソウを見かけていなかったので、昨年見た御嶽中腹の群落だけでなく自生地が広がってきているのだろう。

 ◇ミツバツツジの鎖場よじ登る

 7合目あたり、かつての修験の拠点で48もの礎石が見つかったという福泉寺(ふくせんじ)の跡。「大峰山の竜泉寺と対抗して名づけられたが、室町時代の1482年に大峰山の僧兵に襲われ、5棟の堂舎すべてが焼かれた」と説明されている。ここを通り過ぎると、厳しい岩場が前に迫ってきて身が引き締まる。このあたりから低木が多くなり、コミツバツツジの赤紫の花が緑の中で鮮やかだ。
 高さ8mほどもある巨岩の横を回り込むと岩場の間を登るコースが続く。一部に鎖場もあり、かつての修験の道場の雰囲気を伝えている。「多紀アルプス」という呼び方はちょっとオーバーだが、ほどよい緊張感が体験できる山だ。30分ほど岩場をあがると、ふもとから2時間で小金ケ嶽頂上に着いた。やや曇ってきたが、北には大江山、長老ケ岳など丹波から丹後にかけての山々が見渡せる。

 頂からは西の御嶽に向かって岩尾根が続き、二つの峰の鞍部に下る道は結構急なため、鎖なども使って慎重に降りる。切り立った北側の斜面を見下ろすようにヒカゲツツジの木が連なっている。4月から6月にかけ山野を彩るツツジの仲間でも、こういう黄色のツツジは他にない。黄といってもそう派手でない淡いクリーム色なので茂みの中では目立たないが、名前のとおり日陰の湿った場所に咲く分、さわやかさが引きたつ。稜線には、アセビの白い小さな花がまだ見られ、草花でもシハイスミレの赤紫の花が残っていた。

 ◇西ケ嶽のシャクナゲと棲み分けか

 車道が通じる鞍部のから急坂を登り、行者が泊まった岩室跡を通って最高峰の御嶽山頂を踏んだ。予報どおり小雨が降り出し、眺望は効かなくなったが、今日は三山すべての頂に立ちたいと思っていたので、西ケ嶽への道を進む。小金ケ岳のように険しい岩場はないが、峰を上り下りし、ヒカガツツジとコミツバツツジの花が散り敷かれた道を進むと、御嶽山頂から2時間で西ケ嶽山頂に着いた。ここから栗柄口への尾根道を少し下ると、今日の登山で初めてシャクナゲの花を見つけた。
 山頂からは三嶽の方へ少し戻り、奥栗柄への道を下った。行場だった西の覗(のぞき)からの眺望は得られなかったが、修験のコースにふさわしく鎖場の続く急な下り道が、行者のこもった愛染窟まで続いた。

 かつて栄えた丹波修験は今ではこうした遺跡に歴史をとどめるだけに見えるが、自然の面からはこの多紀連山は今も太平洋側と日本海側を分けるという注目すべき山域だ。北側の雨水は日本海側に流れる水系となり、南側の雨水は太平洋側に注ぐ。前回登った時に伺った「篠山自然の会」会長の樋口清一さんは「太平洋側の植物と日本海側の植物がともにそろい、標高こそ低いが自然の中身が濃い山です。ヒカゲツツジは特別に珍しい種ではありませんが、多紀から氷上にかけての連山にとりわけよく見られ、その中でも同じツツジの仲間のシャクナゲ棲み分けています」と話していた。

 奥栗柄から午後3時50分の「最終バス」でJR篠山口に戻って、電車の時間待ちをする間、居合わせた80歳前という男性から多紀連山の話をうかがった。西宮で会社勤めをしていた時は穂高などで岩登りをしていたが、定年前に帰郷後してからは丹波の山を次々と踏破してきたそうだ。「シャクナゲは栗柄から西の山域で良く見られますよ。篠山連隊や自衛隊が訓練に使った岩場もあります」などと教えてもらって振り返ると、北側に山並みが長く続いていた。
  
                                     (文・写真  小泉 清)