和泉と紀州の国境に立つ和泉葛城山。9月、10月のだんじり祭も終わった岸和田の街を出て標高858mの山頂手前まで登ると、開発の中を生き抜いてきたブナ林が黄金色に色づいていた。

  生存脅かす自然条件と開発乗り越えて 

  南海岸和田駅からバスで45分。大阪の奥の奥という感じの牛滝山威徳寺から上がった。真言・天台兼学の寺院で葛城修験の霊場だったという寺。牛の像から室町時代創建の多宝塔(国重文)の脇を通り、谷沿いの牛滝園地周遊路を歩く。一の滝、二の滝と小ぶりながら個性のある滝が続いていて心地よい。カエデの葉は一部がほんのり赤く染まり始めたばかりだが、紅葉が進むと11月中旬過ぎには寺や渓谷の中でよく映えることだろう。

 周遊路から林道を渡って急坂を登ると、昔からの参道の丁石道に合流した。植林の中の山道だが、ところどころにお地蔵さんが立っていて心を和ませる。威徳寺から1時間半ほど歩き、ようやく登り道に慣れ始めたころ、二十一丁地蔵を越えたところで旧道が終わり林道に吸収されてしまう。舗装された広い道は単調で面白味に欠ける。失望しながらも頂上に歩みを進めると、右手に落葉広葉樹の森が見え、「ブナ林ボードウォーク」と書かれた看板があたったので、その中に駆け込んだ。

 「ボードウォークってなんや」と思っていると、木の根を踏み荒らしから保護するための木道のことだ。板の上を進んでいくと、ミズナラ、リョウブなどの落葉樹が黄葉をはじめている。しばらく行くとお目当てのブナの木が現れてきた。実は大阪南部のそう高くない山では、ブナといっても小ぶりのものにしか育たないだろうと思っていたのだが、どうしてなかなか堂々とした木が並んでいる。もちろん、白山など日本海側の豪雪地帯のブナとは同一に論じられないだろうが、直径1mを超す木もあるようだ。保護のため立ち入りが禁じられているので、正確な幹周りは測れなかったが・・・。

 ブナ林を通る道は距離にすれば500m足らずだが、黄金色色づいてきているブナの黄葉を見上げて歩くと心が弾む。「西南日本の標高800mほどでまとまったブナ林が見られるのは学術上貴重」として国の天然記念物に指定された和泉葛城山のブナ林。学術上云々はとにかく、今年は10月中旬に山にいけず氷ノ山など日本海側でのブナの黄葉に遅れをとったので、大阪の比較的行きやすい山でブナの黄葉を見られるのはありがたい。


 あと急な石段を上がるとと、水の神様として雨乞いをする山麓五か村の農民の信仰を集めた八大竜王社が鎮座する。西に折れると大きな展望塔があり周囲は草原状になってススキが微風に揺れている。北は大阪湾を取り巻く泉州から北摂まで一円、南は龍門山をはじめ紀北の山並みが一望でき、その手前を紀ノ川が走っている。

 頂上へは林道のほか紀和泉高原スカイラインも上がってきているので、登山者以外の人が多い。山に上がってまで賑やかなのは敬遠したいので四方を眺めると早々に退散、北側の山麓・塔原(とのはら)へ下りる道を下る。頂上から標高700mのあたりまではブナ林をはじめ落葉広葉樹の黄葉が続き快適に下れる。左手に「平成9年度ブナ林保全事業」という看板があり岸和田市、貝塚市、大阪みどりのトラスト協会が新たにブナ250本を植栽していることを記している。この時植えたとみられる木が樹高4mほどに育ち、黄葉が午後の陽射しを受けて輝いていた。

 ◇種子から苗育て森の再生めざす

 下山してから岸和田市教委などで、和泉葛城山のブナ林保全の取り組みを尋ねた。岸和田、貝塚市はブナ林の荒廃が目立ってきた1988年に「和泉葛城山ブナ林保護増殖調査委員会」を発足させ、対策を検討。「ブナ林は8haしかなく、このままにしておいては増殖が期待できない」として大阪府が周辺部のコナラ・スギ・ヒノキ林47haを緩衝地帯として購入、93年以降は「みどりのトラスト」が中心となって頂上直下のブナ林で採取した種から発芽した苗を育てた幼木を、緩衝地帯に植えてきた。

 2010年の調査委のデータでは、自生しているブナは天然記念物指定地が444本、緩衝地帯が276本、そしてさらに標高500mほどに下った林でも49本が確認され計769本。他方、緩衝地帯に植栽したブナの本数は2444本に達し、和泉葛城山には計3213本のブナが生育していることになる。

 保護担当者の言うように、ブナの森がよみがえるかどうかは50年、100年という長期的な見方をしないと判断できないというのが真実だろう。ブナの実のなりかたも、和泉葛城山では冷温地に比べて豊作の周期が長く、実の採取、発芽も簡単ではないそうだが、それでも新しいブナが育っていることは明るい材料だ。

 一方で、1923(大正12)年と古くから国天然記念物として価値を認められながら、ブナを取り巻く環境がなぜこんなに悪くなったのかと考えてしまった。戦中戦後の混乱で相当数のブナが切られてしまったのはやむをえないとしても、その後のスカイライン建設、林道の舗装化、施設の設置などは自制できなかったものかと考えてしまう。今もモトクロスで林内に乗り入れたり、ブナに付着したきのこ類を車で持ち帰る人もいるそうで、自然を軽視した観光地となったことによる問題点は今も続いている。

 国境に立つことは、この山の魅力ではあるが、ブナ林をはじめ、自然保護での大阪府と和歌山県の連携が緊密だったとは思えない.。大阪都とか関西州とか論議する以前に克服すべき課題の一つではなかろうか。

 せめてこれからはブナ林をはじめ自然再生と、真に自然の魅力を生かした地域づくりのモデルとなる山であってほしいと願って和泉葛城山を振り返った。     

                                 (文・写真  小泉 清)

  *もうひと足*   滝かける谷道登り、信仰の道下る     



 


季節を歩く

和泉葛城山のブナの黄葉

和泉葛城山のブナの黄葉

   ☆遠望近景

<大威徳寺>

<落葉広葉樹林>

<葛城神社>

<ススキ原>

<大阪湾遠望>

<ブナ林の再生>

和泉葛城山の山頂北側で黄葉したブナ林。範囲は狭いが、意外と大木が目立つ

      ◇案内情報

・時期  ブナの黄葉は10月下旬〜11月上旬。カエデの紅葉は11月

・交通 南海岸和田駅から南海ウイングバスで終点の牛滝山下車。本数は少ない

・電話  岸和田市役所(072・423・2121)、貝塚市役所(072・423・2151)

           2011年10月28日取材


  

大阪府岸和田市、貝塚市